慢性的な咳

=咳って何?=

咳は、気道に入った煙・ウイルス・痰などの異物を体外に排出する生体防御機能の1つです。

一般に異物が気道から排出されてしまえば自然に咳は治まるのですが、何らかの原因で3週間以上も咳が続いてしまうものを慢性咳嗽といいます。

 

=原因は?=

現代医学では、咳の主な原因として、咳喘息・アトピー・気管支拡張症や慢性気管支炎・副鼻腔炎などの鼻疾患・ 風邪・胃食道逆流・タバコ・ 降圧剤の使用・心疾患・咽喉頭炎などがあります。

※更に、現代医学的な詳細をお知りになりたい方は、現代医学専門のHP等をご覧ください。

 

 

=中医学的咳嗽=

中医学では、咳を起こす原因により幾つかのタイプに分類し、使用するツボや漢方薬が違います。

例えば、風邪をひいた時に出る咳の原因は風邪のウイルスです。ウイルスは体の外から襲ってきます。

このように原因が体の中ではなく、外から襲ってくるものを「外感咳嗽」といいます。

それに対して、内臓の機能失調など、体の中に咳の主な原因があるタイプを「内傷咳嗽」といいます。

さらに、「外感咳嗽」も「内傷咳嗽」も幾つかのタイプに分かれます。

 

一般に風邪などの急性的な咳嗽の多くが「外感咳嗽」に属し、慢性的な咳は「内傷咳嗽」に属します。

(今回のテーマは慢性的な咳なので、「外感咳嗽」は簡単に紹介いたします。)

 

◎外感咳嗽

ウイルスのように体の外から襲ってくる病の原因を中医学では「外邪」といいます。

ウイルスに種類があるように、外邪にもその特徴により、風・暑・熱(火)・湿・燥・寒の6種があります。

この中で、咳を起こしやすいものとしては、風・熱・寒・燥などがあります。

一般に風は単独で体を襲う事は少なく、他の外邪を誘導し襲ってきます。

「外感咳嗽」は襲ってきた外邪の種類によって分類されます。

代表的なものには、「風寒タイプ」「風燥タイプ」「風熱タイプ」などがあり、咳以外の共通した特徴としては、急な悪寒、発熱、頭痛などを伴います。

また、発症して期間が短いのも特徴です。

 

《風寒タイプ》

風寒の外邪によって引き起こされる咳です。

薄い白い痰が出ることもあります。

咳の以外の症状としては、喉の痒み、喘息、呼吸切迫、鼻づまり、薄い鼻水、鼻声、悪寒、頭痛、手足の関節のだるい痛み、発熱などの随伴症状が現れます。

治療では、風寒の邪を散らす働きのツボや漢方薬を使用します。

また、針だけではなくお灸も使用する場合もあります。

=養生法=

【ツボ刺激】

天突:喉仏の下、首のつけ根の凹んだ所(人差し指の先で、下に向かって押す)

合谷:手の甲で、親指と人差し指のつけ根の骨が交わる手前の人差し指側。強めに押

します。

列缺:手のひら側の手首の外側から指の幅2本分肘に向かったところ。

 

《風燥タイプ》

風燥の外邪によって引き起こされる咳で、秋によくみられます。

乾いた咳が特徴で、痰はあまり出ませんが、もし痰が出た場合は、粘りが強く喀痰しづらかったり、痰に血が混じる事もあります。

咳以外の症状としては、喉の痒みや乾燥または痛み、鼻や唇の乾燥、頭痛、発熱、鼻づまりなどの随伴症状が現れます。

治療としては、風の邪気を散らして、潤いを与える働きのあるツボや漢方薬を使用します。

=養生法=

【ツボ刺激】

天突:風寒タイプ参照

列缺:風寒タイプ参照

照海:内くるぶしの直ぐ下

復溜:内くるぶしの後ろから、指の幅2本分上のアキレス健の前

 

《風熱タイプ》

風熱の邪気によって引き起こされる咳です。

頻繁で強い咳が特徴です。

咳以外の症状としては、呼吸が荒い、痰は粘りが強く黄色い、発汗、発熱、鼻づまり、鼻水は黄色い、頭痛、喉の渇きや乾燥など

治療は、風熱の邪を散らす働きのあるツボや漢方薬を使用します。

=養生法=

【ツボ刺激】

天突:風寒タイプ参照

列缺:風寒タイプ参照

合谷:風寒タイプ参照

大椎:顔を下に向けて、首の後に手を回し、首の骨を触りながら手を下してゆくと、首のつけ根あたりで飛び出した大きな骨があります。その骨とその下の骨の間。

 

 

次に、慢性的な咳の多くが属す「内傷咳嗽」を紹介します。

◎内傷咳嗽

臓腑の機能失調などによる体の中に咳の原因があるものをいいます。

慢性咳嗽の多くがこのタイプに属します。

内傷咳嗽もその原因により幾つかのタイプに分類され、治療法が違います。

代表的なものとしては、「イライラタイプ」「水分代謝障害タイプ」「潤い不足タイプ」などがあります。

 

《イライラタイプ》

中医学では「肝火咳嗽」といいます。

過剰なストレスを受けたり、激怒した時にでる咳などがこのタイプに含まれます。

中医学ではストレスや激怒などの精神的な刺激を受けると肝の気が停滞すると考えます。

気には「温煦作用」といって、温める働きがあるので、気が停滞してしまうと余分な熱がうまれてしまいます。熱は上に上がる性質があるので、気の停滞によりうまれた熱が勢いよく上に昇ってくることにより起こる咳です。

特徴としては、激怒したり、ストレスを受けると激しい咳がでます。

咳以外の症状としては、咳をしている時は顔が赤い・口が渇いたり苦く感じる・目の充血・痰は粘りが強く喉にひっかかる感じがし、なかなか喀痰できず、痰の量は少ない・胸や脇が張ったり、張った様な痛みがあり、咳をすると痛みが増す。

治療では、熱を鎮めて、昇っている気を下に降ろしてあげます。

=養生法=

出来るだけストレスを溜めないようにしましょう。

このタイプは気が滞っている方が多いので、気を流す養生法を実践しましょう。

・ストレッチや深呼吸などは気を流す働きがあります。

・普段の生活では出来るだけストレスを溜めないようにしたり、ドライブ、ショピング、映画鑑賞など、ご自分にあったストレス発散法をみつけましょう。

 小説や映画などを見て笑うのは勿論のこと、思い切り泣くこともストレス発散になります。

・柑橘系の香りは「気」の巡りを改善させます。みかんやレモンの皮などを入浴剤とした

り、お部屋の芳香剤としてみてもいいでしょう。

また、アロマを代用する方法もあります。

・生活リズムも出来るだけ規則正しくし、精神も出来るだけ安定させるように心がけましょう。

【食べ物】

牛乳・牡蠣・あさり・しじみ・しゃこ・しらす・かに・みょうが・三つ葉・春菊・パセリ・セロリ・シソの葉・からしな・にら・ねぎ・小松菜・菊花・キャベツ・かいわれ大根・大根・かぶ・ラディッシュ・ザーサイ、みかん・グレープフルーツ・ゆず・キンカン・レモン・しょうが・こしょう・八角・ウイキョウ・ペパーミント・ローズマリー・タイム、など

※中医学ではミントやシソのような香りのあるものが「気」を流すと考えており、ストレス解消に役立つといわれています。

 [お茶]

シソ茶・ジャスミン茶・ミントティー・タイムティー・ローズマリーティー・カモミール茶・緑茶・菊花茶、など

【ツボ刺激】

太衝:気を流す効果の高いツボです。

足の甲にあり、親指と人差し指の付け根の骨が交わる所の少し前にあります。

気の流れの悪い方はツボを押している時に、一緒に深呼吸をすると効果が高まります。

 

《水分代謝障害タイプ》

中医学では「痰湿咳嗽」といいます。

水分代謝が悪くなると体内で「痰飲」という病理物質が生まれます。とくに痰は、粘度が高く気の通り道の経絡などに貼りつき、気の流れの邪魔をします。

この影響を肺が受けてしまうと咳がでます。

痰混じりで、反復する咳が特徴です。また、喀痰すると咳が楽になります。

早朝と食後に咳と痰が酷くなる方も多いようです。

咳以外の症状としては、胸や喉元に何かつかえたような感じがする・胃がつまる様な感じがする・悪心嘔吐・食欲不振・大便は軟便傾向・身体が重いなど。

治療では、水液代謝を改善させ、痰を取り除きます。

=養生法=

このタイプの方は、体内の余分な水分を排出させる養生法を実践しましょう。

・水分の摂り過ぎには十分注意しましょう。

・冷たい飲み物は避け、喉が渇いた時は出来るだけ温かいものを少しずつ飲みましょう。

・汗をかくと体内の余分な水分が出るので、入浴はあまり熱くない程度のお湯で長めに入り、汗をかくようにしましょう。また、程よい運動で汗をかくのもいいでしょう。

・食べ物には十分注意して、冷たいもの、生ものなどの採りすぎには十分注意しましょう。また、雨に濡れたりしないよう湿気にも十分注意してください。

・体が冷えると水分代謝が悪くなるので、服装も気を付けて下さい。

【食べ物】

はとむぎ・とうもろこし・きゅうり・さやえんどう・セロリ・冬瓜・もやし・白菜・ズッキーニ・ごぼう・そば・ハスの実・小豆・大豆および大豆製品・緑豆・黒豆・えんどう・空豆・ネギ・にら・ニンニク・よもぎ・すいか・すもも・ぶどう・キウイ・メロン・こしょう・山椒・生姜・シナモン・羊肉・鶏肉・あさり・あわび・しじみ・はまぐり・ふな・どじょう・こい・すずき・昆布・のり・わかめ・ところてん、など

【お茶】

プーアール茶・緑茶・紅茶・ウーロン茶・ジャスミン茶、など

【ツボ刺激】

陰陵泉:膝関節の内側のすぐ下で、押すと凹むところです。

豊隆:外くるぶしと膝の皿の下縁の外側の中間

足三里:膝関節外側から指4本分下で骨の際にあります。

やや強めに押しましょう。

 

《潤い不足タイプ》

中医学では「陰虚咳嗽」といいます。

肺の潤い不足により起こる咳です。

空咳となるのが特徴です。また、夜間や温めると咳が悪化します。

このタイプの方は、基本的に痰は少ないのですが、痰が出ると血が混じることがあります。

咳以外の症状としては、喉の乾燥・声のかすれ・午後に発熱をする・頬が赤い・手のひらや足の裏や胸がほてる・寝汗など。

治療は肺を潤す治療をします。

=養生法=

このタイプの方は、潤いをます養生法を実践しましょう。

・身体を潤す力は、夜の12時前の睡眠により作られます。夜更かしはせず、12時前には寝るようにしましょう。

・熱いお風呂はのぼせを悪化させますので、ぬるめの温度設定にしましょう。また、このタイプの方はサウナは向きません。

[食べ物]

辛い物の摂り過ぎはのぼせを悪化させますので注意して下さい。

とうがん・トマト・きゅうり・山芋・すいか・リンゴ・梨・ぶどう・柿・いちご・メロン・夏みかん・白きくらげ・ゆり根・はちみつ・くわの実・なまこ・豚足牛乳など

[お茶]

緑茶・ウーロン茶・菊花茶など

[ツボ刺激]

「太谿」:内くるぶしとアキレス腱の間

「復溜」:内くるぶしから、指3本上で、骨とアキレス腱の間

これらのツボを痛気持ちいい位の力で押しましょう。

 

=まとめ=

最後までお読み頂き有難うございました。

慢性咳嗽には、他の病気が隠れていることがあります。

咳がいつまでも続くようなら一度医療機関の受診をおすすめいたします。

お大事になさって下さい。

 

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