動悸

普段私たちは激しい運動をした時などを除いて、心臓の拍動を自覚することはありませんが、普通の日常生活で心臓の拍動を自覚することを動悸といいます。

中医学では動悸を心悸といい、心臓の拍動と不安感を感じる症状をさします。

また、症状により「驚悸」や「怔忡」などともよばれます。

中医学では、心悸のタイプを発生のメカニズムにより幾つかのタイプに分類をします。

今回はその中から、代表的な5つのタイプを紹介しましょう。

 

【代表的な心悸のタイプ】

①オドオドタイプ

②貧血タイプ

③熱タイプ

④血行不良タイプ

⑤冷えタイプ

 

それでは各タイプの特徴と養生法を紹介しましょう。

 

①オドオドタイプ(心胆気虚)

中医学では、血液を全身へ送っている臓器を「心(しん)」とよんでいます。

これは現代医学の心臓に似た働きですが、それ以外に精神活動にも深く関わります。

その為、とても驚いたりすると心悸が起ってしまいます。

又、中医学では胆が弱ると、ちょっとした事で驚いたり、怯えるようになってしまいます。

このような状態は精神活動と深い関わりを持つ心へも影響してしまい心悸が起ります。

もともと、心や胆が弱いと病的に直ぐに驚いたり、怯えたりして心悸が起ってしまいます。

このタイプを中医学では心胆気虚といいます。

 

=特徴的な随伴症状=

息切れ・驚きやすい・強い不安感・精神的に落ち着かな・不眠・夢をよくみる・疲れやすい・倦怠感・疲れると動悸が悪化するなど。

 

=ツボマッサージ=

神門:手首の手のひら側の小指側のシワのやや上の凹んだところ。

内関:手のひら側の手首のシワから指2本分上の腕の中央

 

=おすすめの食材=

小麦・たら・とうもろこし・やまいも・ゆりね・たまご・竜眼肉など。

 

=その他=

このタイプの方は、特に精神的刺激は禁物です。出来るだけ安静な環境に身を置きましょう。

 

②貧血タイプ(血虚)

中医学では、神明という物質があります。これは、精神活動を正常に保つ働きをしているものですが、この神明は血によって栄養されています。

このことから、血が不足してしまうと神明が栄養されず精神が不安定となり心悸が起ってしまいます。このタイプを中医学では血虚といいます。

原因としては、

ⅰ、慢性疾患・精神疲労・過度な出血などがあります。

ⅱ、中医学では脾が血を作ります。過度な肉体疲労や慢性疾患は脾を弱めてしまい、その結果、血が作られず血の不足をまねきます。

 

=特徴的な随伴症状=

めまい・顔の血色が悪く、艶が無い・不眠・夢を多くみる・不安・目のかすみなど。

 

=ツボマッサージ=

神門:手首の手のひら側の小指側のシワのやや上の凹んだところ。

内関:手のひら側の手首のシワから指2本分上の腕の中央

足三里:膝の皿の下外側の角から指4本分下で骨の際にあります。

血海:膝の皿の上の内側の角から親指の幅2本分上のところ。

 

=おすすめの食材=

米・やまいも・にんじん・ほうれん草・小松菜・ぶどう・なつめ・豚レバー・豚ハツ・イカ・牛乳など。

 

=その他=

このタイプの方は、精神疲労は禁物です。あまりくよくよ悩まず上手に気分転化をして下さい。

また、上記の食材を参考にしっかり血を補ってください。

しかし、脾の弱い方は無理をして食べる必要はありません。消化のよいもの食べたい分だけ食べて下さい。

 

 

③熱タイプ

体内の余分な熱は心へ影響し、精神活動が乱されて心悸が起ってしまいます。

熱タイプは、その原因により「水分代謝異常・熱タイプ」「潤い不足・熱タイプ」に分かれます。

水分代謝異常・熱タイプ」(痰火擾心)

脂っこいものなどの食べ過ぎは体の中で水分代謝を悪くし、痰という病理物質を産んでしまいます。この痰が長期にわたって体内で停滞することにより熱化し、心へ影響をおよぼします。このタイプを中医学では痰火擾心といいます。

 

=特徴的な随伴症状=

胸が詰まった感じがする・胸がほてって落ち着かない・口が苦い・黄色い痰が出る・大便がスッキリ出ない・小便が黄色いなど。

 

=ツボマッサージ=

豊隆:膝の皿の下外側の角と外くるぶしの真ん中の高さで、向う脛から指から指2本分位    外

郄門:腕の内側の真ん中で、肘と手首のほぼ中央。

 

=おすすめの食材=

あずき・はと麦・とうもろこし・里芋・へちま・とうがん・たけのこ・金針菜・海藻・そば・大根・かぶ・おくらなど。

 

=その他=

このタイプの方は食事に気をつけて下さい。甘い物・味の濃い物・脂っこいものなどの過食は禁物です。またお酒も飲み過ぎないように注意しましょう。

 

ⅱ「潤い不足・熱タイプ」(陰虚火旺)

慢性病・過度な肉体疲労・性行為の過多などは、体内の冷却する力を奪います。その結果、熱がうまれ、心へ影響し心悸が起ります。

このタイプを中医学では陰虚火旺といいます。

 

=特徴的な随伴症状=

手のひらや足の裏や胸のほてり・喉の渇き・寝汗・胸がほてりイライラ感がある・不眠・めまい・目のかすみ・セミの鳴くような耳鳴り・膝や腰に力が入らなかったり痛むなど。

 

=ツボマッサージ=

神門:手首の手のひら側の小指側のシワのやや上の凹んだところ。

内関:手のひら側の手首のシワから指2本分上の腕の中央

復溜:内くるぶしから、指3本上で、骨とアキレス腱の間

 

=おすすめの食材=

ゆりね・いんげん・しいたけ・栗・松の実・黒ごま・たまご・鴨肉・すっぽん・貝類・牛乳など。

 

=その他=

体を潤す力は睡眠により得られます。しかし、寝れば何時でも良いというわけではありません。出来るだけ夜中の12時前に寝るように心がけましょう。

 

 

④血行不良タイプ(血瘀)

血行が悪いことにより、心が栄養されず心悸が起ります。

主な原因は

①慢性病や大病あるいは冷えは、体を温める力を奪い血行不良を起こします。

②過度のストレスは気の巡りを悪化させます。体内で血と気は一緒に巡るので、気の巡りが悪くなると血行も悪くなってしまいます。

このタイプを中医学では心血瘀祖といいます。

 

=特徴的な随伴症状=

胸が詰まった感じや不快感がする・唇や爪の色が青紫・心痛が時々起る・唇やのチアノーゼなど。

 

=ツボマッサージ=

内関:手のひら側の手首のシワから指2本分上の腕の中央

血海:膝の皿の上の内側の角から親指の幅2本分上のところ。

三陰交:内くるぶしから指4本上の骨際

 

=おすすめの食材=

くわい・きくらげ・チンゲン菜・酢・酒など。

 

=その他=

冷えやストレスは血液の循環を悪くさせます。体を冷やさないように注意しましょう。

またストレスを溜めないように上手に気分転換をして下さい。ストレッチや軽い運動は、気も血も両方の流れを良くしてくれますので、無理のない程度にやってみましょう。

 

 

⑤冷えタイプ(心陽虚)

大きな病気や慢性病などにより、体を温める力がなくなり心を温められなくなり心悸が起ります。

このタイプを中医学では心陽虚といいます。

 

=特徴的な随伴症状=

胸がつまる感じがする・不安・息切れ・手足の冷え・顔色が青白いなど。

 

=ツボマッサージ=

神門:手首の手のひら側の小指側のシワのやや上の凹んだところ

内関:手のひら側の手首のシワから指2本分上の腕の中央

関元:お臍から指4本分下。手のひらなどで温めてあげましょう。

神闕:神闕とはお臍です。手のひらなどで温めてあげましょう。

 

=おすすめの食材=

羊肉・牛肉・なまこ・えび・ピーマン・らっきょ・にら・もち米・など。

 

=その他=

冷えが禁物です。体を冷やさないように注意して下さい。

 

 

※※その他、どのタイプにも共通の注意事項※※

・精神的刺激は避ける

・睡眠を十分にとる

・規則正しい生活をする

《控えた方がよい食材》

焼酎・濃いお茶・コーヒー・唐辛子・肉の脂身・カレー・キムチ・ハーブ類・香辛料など

一般に辛い物、煙草、飲酒などの刺激物は控える。

 

 

最後までおよみ頂き有難うございました。

動悸を中医学の観点から代表的なタイプに分類して紹介させて頂きました。

中医学では、一言に動悸といってもその原因や病理機序によって分類があり治療法が異なります。

勿論、紹介したもの以外のタイプや幾つかのタイプが混ざったものもあります。

また、動悸は重大な病気が隠れていることもあります。

動悸でお悩みの方は、一人で悩まず、専門家にご相談下さい。

尚、ここでご紹介した養生法は、一般的なものです。

現在、病院等に通院されておられる方は、担当医にご相談の上実行して下さい。

最近のエントリー