『中医学』という言葉はあまり聞き馴染みがないかも知れませんが、「東洋医学」に含まれる医学の1つで、その歴史は古く今から4千年前には中国で生まれ、針灸治療や漢方薬を生み出した医学です。また鍼灸そのものの歴史は更に古く、5万年前には灸法の基礎が生み出され、約1万年8千年前には、骨で作った鍼で治療をしていたようです。日本には6世紀には渡って来たといわれています。
因みに「東洋医学」とは、中国や、日本・インド・チベットなどの、東洋の国々で生まれた医学の総称です。
それに対して、皆さんが病院で受けられる医学は基本的には「現代西洋医学」(以下:現代医学)といわれるもので、近代西洋で生まれた医学であります。
「中医学(東洋医学)」と「現代医学」とは、同じ医学といっても、実は全く別の概念の独立した医学であります。例えば、身体の仕組みや構造・病気になるメカニズム・治療法などの概念が両医学ともまったく違うのです。これは、どちらが優れていて、どちらが劣っているというものではありません。どちらも優れた医学でありますが、どちらとも得意・不得意分野が存在します。ですから、私ども鍼灸院へ来院された患者さんであっても、現代医学の治療が適している場合は病院への受診を勧める事もありますし、逆に最初にお医者さんに診てもらったら、「異常は無いと」と言われたがどうも調子が悪く、その後鍼灸治療を受けたら症状が良くなったという事もあります。これは「現代医学」と「中医学(東洋医学)」がまったく違う概念の医学だからこそ起こりうることなのです。ですから、両医学の得意分野で一方の不得意分野を補うことが最良の方法であります。事実、両医学を使い分けて受診されている患者さんも沢山おられますし、今後はそういった方が益々増えていくことでしょう。
さて、話しを中医学に戻しましょう。
中医学では、「この病気には、このツボやこの治療法」といった病名による診断や治療は行いません。あくまでも、患者さんの症状や体質などを考慮して、患者さん一人一人について、身体のバランスの崩れなどを判断し、その方にあった、その方だけの治療を行います。ですから、同じ症状であっても、患者さんが違えば使用するツボや治療法が異なることがよくありますし、患部のみに鍼を打つことは珍しく、身体全体のツボを使用し、身体の歪みを整えます。また、鍼灸治療は病気と闘うというより、患者さんの本来持っている自然治癒力を高めることにより、健康な身体を取り戻したり、病気の予防をするといった治療法です。ですから、長く治療を続けていると治療していた症状とは別の症状まで改善されたり、身体全体が調子よくなることがよくあります。このようなことが、中医学が「オーダーメイドのやさしい医学」といわれる由縁です。
ところで、一般に針灸治療は全て東洋医学や中医学による治療と思われる方も多いと思いますが、実は日本の鍼灸治療では、西洋医学の概念による治療を行っている先生方が多く、本格的な中医学による治療を行っている治療院はまだまだ少ないのが現状であります。これは、現在の鍼灸学校は西洋医学中心のカリキュラムで、中医学(東洋医学)は殆んど勉強しないからであります。勿論、西洋医学の概念による鍼灸治療も十分な効果はあります。ただ、患者さんの方で本来の中医学による治療を希望される場合や、中医学の本来の効果を期待しておられる場合は、中医学を専門に学んだ先生のおられる治療院への受診をお勧めします。また、先程も述べたように、東洋医学といっても様々な医学がありますので、東洋医学の何を勉強された先生なのかを、しっかり確認してからの受診をされるとよいでしょう。
現在では162カ国の国々と地域で中医学が応用されており、特に近年では、WHO(世界保健機構)が中医学の見直しを図っていることにより、ヨーロッパや米国などの先進諸国においての普及や研究が進んでおります。
中医学はこのような課題に対する知識も豊富に存在し、その他の疾患に対しても幅広い守備範囲を持ちます。
当院では、この中医学の特性や知識を活かし、皆様の健康回復や未病対策のお力になれればと考えております。
お体の事でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
また、近年の日本は急速な高齢化や過度なストレスなどに伴い、「未病対策」が注目され始めています。「未病」とは、病気になる一歩手前の状態をいいます。例えば、病院へ行くほどではないが、何となく調子が悪いとか、病院で検査をしても異常が見つからないが、身体の調子が悪いといった状態です。この「未病」の段階で、治療を開始すれば、一般には治療の期間も短く済みますし、大きな病気に至ることはありません。
現代の最先端の技術や科学の粋を結集した現代医学が病院へ行けば簡単に受診することが可能であるのに、これだけの地域でこのような長い年月、中医学による治療が行われ続けるのには、中医学が医学として独立した地位を築いているからに他なりません。