生理痛

生理痛は酷い方になると下腹部の耐えがたいほどの痛みや、頭痛、腰痛、発熱、めまい、イライラといった症状を伴う場合もあり、仕事や勉強、日常生活にまで影響がでてしまう方もおられます。

生理痛は現代医学では、黄体ホルモンの急激な変化による自律神経のバランスの崩れや、プロスタグランジンの過剰分泌から起こる過度の子宮収縮、生理後半での血液のうっ血が主な原因とされており、鎮痛剤か月経を調節するホルモン療法が一般的です。

上記に対し、中医学では生理痛の主な原因は「気・血(けつ)」の運行がスムーズでなくなったり、「気・血」などの不足によっておこると考えます。(気・血については「入門編」を参照して下さい)

 

それでは、中医学的生理痛の説明をはじめましょう。

先ず、中医学では痛みの原因を大きく下記の2つに分類しています。

①  「不通則痛」(通ぜざれば痛む)

健康な体は常に「気」「血」がスムーズに流れているのですが、何らかの原因により、これらが滞ってしまうと痛みが現れることがあります。

この場合の痛みの特徴は、激痛で痛む部位を押したり揉んだりすると嫌な感じがします。また痛みは急に起こることが多いようです。

この痛み方は、中医学では実証といわれるタイプの病証に多くみられます。

 

②  「不栄則痛」(栄えざれば痛む)

健康な体は気血などにより常に栄養されているのですが、何らかの原因により栄養されないと、その部位に痛みが現れます。

多くは「気」「血」などが不足することにより栄養されない場合と、「気」「血」などは不足していないのに、その部位まで「気」「血」が届かず栄養不足となりおこる場合があります。

この場合の痛みの特徴は、激しい痛みではなく、痛み自体は軽いことが多いようです。又、揉んだりさすったりするととても気持ちよく感じ、痛みは急ではなく緩慢に発症します

この痛み方は、中医学では虚証といわれるタイプの病証に多くみられます。

 

又、実際の場合は「虚実挟雑証」といって、上記の2つのタイプが混ざったものもあります。

 

さて、中医学では生理痛は、上記の原因が何によって起こっているのか?

例えば痛みの原因が滞っているのであれば、滞っているのは「気」なのか「血」なのか、あるいはそれ以外のものなのか?

又、栄養不足なら、不足しているものは、「気」なのか「血」なのか、あるいはそれ以外のものなのか?いったい何が不足して栄養不足となっているのか?などを分析し、それに加え冷えや熱症状の有無を加味して下記の6つのタイプに分類し、そのタイプにより治療法や養生法を使い分けます。

 

【生理痛のタイプ】

①   『イライラ』タイプ

②   『血液代謝障害』タイプ

③   『水分代謝障害』タイプ

④   『エネルギー&血不足』タイプ

⑤   『のぼせ』タイプ

⑥   『冷え』タイプ

 

ではそれぞれについて養生法も交えて紹介をしていきます。

 

①   『イライラ』タイプ 

中医学でいう「気帯証」といわれるタイプです。

これは、気の流れが滞ってしまうことによって起こるタイプです。

中医学では、イライラなど過度なストレスなどは「気」の巡りを妨げ、「気」を滞らせてしまいます。本来「血」がスムーズに循環できるのは、「気」の働きによるのですが、「気」が滞ってしまうと、「血」にまでその影響がおよび、あげくには「血」も滞ってしまい、その影響が下腹部に及ぶと、生理痛となります。

 

=生理痛の特徴=

・生理前から生理中に張ったような痛みがある。どちらかというと、痛みより張感のほうが強い。

・生理が始まると楽になる。

・痛む部位を揉んだりしても気持ちよくなかったり、逆に嫌な感じがする。

・イライラしたりすると痛みが増したり、月経不順が酷くなる。

・生理前に胸や脇、乳房が張る。

・月経がスムーズに来潮しない。

・月経の血量は少なく、血の塊が混じることもある。

・生理周期は不安定で、早くなったり、遅くなったりする。

=その他の随伴症状=

・口が苦いことがある。

・ため息をよくつく。

・偏頭痛がある。

・生理前はイライラしたり怒りっぽくなったり、あるいは落ち込んだりと精神が不安定になる。

・ガスやゲップが出る。

・お腹が張る

 

=養生法=

このタイプの方は気を流す養生法を実践しましょう。

 

[ツボ刺激]

 「帰来」:どのタイプの生理痛にも使えるつぼです。臍と恥骨の間を5等分し、恥骨から上に5分の1の所から指の幅2本分外側にあります。やや強めに押して下さい。

「太衝」:気を流す効果の高いツボです。足の甲にあり、親指と人差し指の付け根の骨が交わる所の少し前にあります。

気の流れの悪い方はツボを押している時に、一緒に深呼吸をすると効果が高まります。

 

[食べ物](おすすめの食材)

大根・蕎麦・みかん・ローズなど

※中医学ではミントやシソのような香りのあるものが「気」を流すと考えており、ストレス解消に役立つといわれています。

[お茶]

シソ茶・ジャスミン茶・ミントティー・タイムティー・ローズマリーティー、など

 

[漢方薬]

紫胡疎肝散・血府逐瘀丸・逍遥散

 

[その他]

・ストレッチや深呼吸などは気を流す働きがあります。

・普段の生活では出来るだけストレスを溜めないようにしたり、ドライブ、ショピング、映画鑑賞など、ご自分にあったストレス発散法をみつけましょう。

・柑橘系の香りは「気」の巡りを改善させます。みかんやレモンの皮などを入浴剤としたり、お部屋の芳香剤としてみてもいいでしょう。また、アロマを代用する方法もあります。

 

 

②  『血液代謝障害』タイプ 

中医学でいう「血瘀証」といわれるタイプです。

「血」がスムーズに流れず滞ってしまったことにより起こるタイプです。

流産や難産、あるいは冷えや「気」の滞りの長期化などによって、「血」に滞りが生じます。この状態が下腹部に影響すると生理痛がおこります。

 

=生理痛の特徴=

・刺す様な激しい痛み。

・毎回同じ場所が痛む。

・出血の色は暗く、血塊が混ざることが多い。

・血塊が大量に出ると、痛みは楽になる。

・月経の血量は、1日目は少なく2日目から急に多くなる。

・月経の期間は長い事が多く、7日以上だらだらと続き、終わりもすっきりとは終わらない。

・生理周期は不安定で遅れ気味になることが多い。

・生理が始まると痛くなる。

・出血が多い時は特に痛い。

=その他の随伴症状=

・目の下にくまがよくできる。

・あざができやすい。

・肌の一部が黒ずんでカサカサしている。

・シミや日焼けの痕が残りやすい。

・肌のくすみ・ソバカスが気になる。

=養生法=

このタイプの方は、血を流す養生法を実践しましょう。

 

[ツボ刺激]

「帰来」:イライラタイプ参照。

「血海」:膝の皿の上の内側の角から親指の幅2本分上の所です。

「三陰交」:内くるぶしの上、指4本分で骨際の所です。

両穴とも血を流す効果の高いツボです。やや強めに押しましょう。

 

[食べ物](おすすめの食材)

ニラ・ニンニク・玉ねぎ・なす・ウコン・サフラン・ローズなど

※お酒は少量で、野菜は生野菜だと身体を冷やすので、できれば温野菜がよろしいです。

 

[お茶]

ウコン茶・ローズティー・シナモンティー・紅花茶・紅茶・くず湯・ハイビスカスティー・田七人参茶、など

[漢方薬]

折衝飲・桂皮茯苓丸

 

[その他]

ストレッチや適度の運動は「血」の滞りを改善しますので、是非行って下さい。

又、長時間座ったり、同じ姿勢でいることは、「血」の巡りを悪くさせますので気を付けてください。

冷えも「血」を滞らせますので注意して下さい。

 

 

③  『水分代謝冷え障害』タイプ 

中医学でいう「寒湿証」といわれるタイプです。

水分代謝がわるく、身体のなかに余分な水分が溜まって冷えている状態のタイプです。

冷たいものや、生ものなどを食べすぎたり、生理中に雨に濡れたり泳いだり、あるいは湿気の多い所に長期間住んでいたりすると、余分な湿気が下腹部に影響し、生理痛をおこします。

 

=生理痛の特徴=

・月経前・月経中に下腹部に冷痛がある。

・冷たいものを食べたり、寒いと痛みが増す。

・痛む部位を揉んだりしても気持ちよくなかったり、逆に嫌な感じがする。

・酷い場合は、痛みが腰背部にまで達する。

・温めると楽になる。

・月経の血の量は少なく、色は暗い紫色で血塊が混ざることもあります。

・透明なおりものが多い。

 

=その他の随伴症状=

・下腹部が冷えて痛む。

・むくみやすい。

・寒がり。

・手足の冷えがある。

・小便は透明で、量が多い、あるいは回数が多い。

 

=養生法=

このタイプの方は、体内の余分な水を外に出し身体を温める養生法を実践しましょう。

 

[ツボ刺激]

「帰来」:イライラタイプ参照。

「陰陵泉」:膝関節の内側のすぐ下で、押すと凹むところです。

「中極」 :臍と恥骨の間を5等分し、恥骨から上に5分の1の所。

やや強めに押しましょう。又、家庭灸もよいです。

 

[食べ物](おすすめの食材)

長ネギ・にら・ニンイク・よもぎ・・アスパラ・胡椒・山椒・シナモン・クローブ・乾生姜・羊肉・鶏肉・紹興酒・黒砂糖・紅茶など

 

[お茶]

プーアール茶・緑茶・紅茶・ウーロン茶・ジャスミン茶、など

 

[漢方薬]

真武湯・苓姜朮甘湯

 

[その他]

・水分のとりすぎには十分注意しましょう。

・冷たい飲み物は避け、喉が渇いた時は出来るだけ温かいものを少しずつ飲みましょう。

・汗をかくと体内の余分な水分が出るので、入浴はあまり熱くない程度のお湯で長めに入り、汗をかくようにしましょう。また、程よい運動で汗をかくのもいいでしょう。

・食べ物には十分注意して、冷たいもの、生ものなどの採りすぎには十分注意しましょう。また、雨に濡れたりしないよう湿気にも十分注意してください。

・体が冷えると水分代謝が悪くなるので、服装も気を付けて下さい。特に下腹部は冷やさないで下さい。

・下記の食材は体を冷やすので、摂り過ぎには注意して下さい。

アイスクリーム・スイカ・冬瓜・苦瓜・きゅうり・茄子・セロリ・くわい・ごぼう・だいこん・バナナ・キウイフルーツ・梨・イチゴ・オレンジ・グレープフルーツ・メロン・抹茶・カキ・カニなど

 

 

④  『エネルギー&血不足』タイプ 

中医学でいう「気血両虚証」といわれるタイプです。

「気血」の不足により起こるタイプです。

過度の疲労や慢性疾患などで「気」を消耗してしまったり

無理なダイエットや胃腸障害などで、「気」「血」が作られないと、「気」「血」が不足してしまい、それが下腹部に影響すると生理痛がおこります。

 

=生理痛の特徴=

・疲れると痛みが増す。

・出血時に下腹部が下に落ちる感じがする。

・月経の血量は少ない。

・月経の血の色は淡い。

・月経の血の質は希薄。

・生理期間は短め。

・生理は遅れ目。

・生理の終わり頃から終了にかけて、腰やお腹が痛んだり、重い。

・痛む部位を揉んだり、さすったりすると気持ちがいい。

・不正出血がおこることもある。

=その他の随伴症状=

・倦怠。

・動くとすぐに疲れて、横になりたくなる。

・顔に色艶がない。

・唇や爪の色に赤みがない。

・息切れや動悸がする。

・めまいやたちくらみがある。

・食欲がなかったり、食後お腹が張って疲労感もある。

・胃腸が弱く、下痢をしやすい。

 

=養生法=

このタイプの方は、「気」「血」を増やす養生法を実践しまよう。

 

[ツボ刺激]

「帰来」:「イライラタイプ」を参照

「三陰交」:「血液代謝障害タイプ」を参照

「足三里」:膝関節外側から指4本分下で骨の際にあります。

気持ちいいぐらいの力で、長めに押しましょう。

 

[食べ物](おすすめの食材)

じゃがいも・山芋・ほうれん草・なつめ・人参・しいたけ・鶏肉・豚肉・牛肉・羊肉・ウズラ・レバー・豆腐・もち米・うるち米・あわ・大麦・きくらげ・くわの実・らいち・松の実・スッポン・なまこ・ひらめ・イカなど

 

[お茶]

なつめ茶・ほうじ茶・杜仲茶・麦茶・はとむぎ茶、など

 

[漢方薬]

十全大補湯・人参養栄湯

 

[その他]

過労は禁物です。また、「気」「血」は食べ物によって作られますので、上記を参考にきちんとしたバランスの良い食事をして下さい。特に生理中~生理後は「血」を消耗していますので注意が必要です。

また、食事だけでなく睡眠もきちんととって下さい。夜更かしは禁物です、いくら睡眠時間が多くても、中医学では12時前に寝ないと良い睡眠とはいいません。

 

 

⑤  『のぼせ』タイプ

中医学でいう「肝腎不足証」といわれるタイプです。

先天的な虚弱・過剰な性行為・夜更かし・過度な肉体労働・出産時の大量出血などは、「精血(せいけつ)」を消耗してしまいます。この精血不足は下腹部の栄養不足を起こすことがあり、その結果生理痛がおこります。

 

=生理痛の特徴=

・月経中や月経後に下腹部に隠痛がある。

・痛む部位を揉んだり、さすったりすると気持ちがいい。

・月経量は少ない。

・月経の血の色は淡く、血の質は希薄な感じがする。

・SEXが多いと疲れて症状が悪化する。

・月経は遅れがち。

=その他の随伴症状=

・月経時に腰も重だるい。

・手の平や足の裏が火照る。

・めまいやジーという低い耳鳴りがある。

・背足腰がだるかったり、痛みがある。

・顔色もさえず、精神疲労がある。

・寝汗。

・陰部が乾燥気味で性交時に痛みがある。

 

=養生法=

このタイプの方は、「精血」を補う養生法を実践しまよう。

 

[ツボ刺激]

「帰来」:「イライラタイプ」を参照。

「三陰交」:「血液代謝障害タイプ」を参照。

「太谿」:内くるぶしのすぐ下で、足首よりの凹んだ所です。

気持ちいいぐらいの力で、長めに押しましょう。

 

[食べ物](おすすめの食材)

ゆりね・豆腐・白きくらげ・牛乳・黒ごま・くり・ぶどう・くわの実・クルミ・クコの実・ハスの実・小麦・卵・鶏肉・烏骨鶏・レバー・イカ・アワビ・牡蠣・ナマコ、など

 

[お茶]

杞枸茶、など

 

[漢方薬]

杞菊地黄丸

 

[その他]

・夜更かしは禁物です。

 ・大量に汗をかかないようにしましょう。

・過度な肉体疲労や性交渉はしないようにしましょう。

・以下の食材は摂り過ぎないようにしましょう。

あずき・すいか・冬瓜・キュウリ・里芋・大根(これらは、利尿効果がある食材です。)・香辛料・キムチなど

 

 

⑥  『冷え』タイプ

中医学でいう「虚寒証」といわれるタイプです。

「気」の不足が悪化するとよく現れるタイプで、身体を温める力がなくなってしまっている状態です。下腹部を温められなくなり生理痛がおこります。

 

=生理痛の特徴=

・冷やすと痛みが増し、温めると痛みが軽減する。

・月経の血の色は淡い。

・月経量は少ない。

・透明なオリモノがよく混ざる。

=その他の随伴症状=

・お腹が冷たい。

・疲れやすく、身体が冷えている感じがする。

・顔色が青白い。

・むくみやすい。

・冷えると下痢をしやすい。

・小便は透明で量が多かったり、回数が多い。

 

=養生法=

このタイプの方は、身体を温める力を補う養生法を実践しまよう。

 

[ツボ刺激]

「帰来」:「イライラタイプ」を参照。

「太谿」:「のぼせタイプ」を参照。

「関元」:臍の下指4本分の所です。

気持ちいいぐらいの力で、長めに押しましょう。

 

[食べ物](おすすめの食材)

くり・やまいも・トマト・にんじん・かぼちゃ・里芋・りんご・もも・もち米・あわ・麦芽・大豆・なつめ・ピーナッツ・はすの実・生姜・鶏肉・豚肉、黒砂糖・甘酒など

 

 [お茶]

紅茶・生姜紅茶・生姜黒砂糖茶・よもぎ茶・シナモンティー・シナモンミルクティー、など

 

[漢方薬]

当帰四逆散・温経湯・八味地黄丸

 

[その他]

普段から身体を冷やさないように注意しましょう。

特に生理中の冷えは厳禁です。食べ物や洋服には注意して下さい。スカートよりズボンがおすすめです。またカイロを「関元」などの温める効果のあるツボの上に貼るなどしましょう。その他に下腹部を温めるつぼは、仙骨の辺りや、おへその真後ろの腰や内ももにあります。内ももはカイロが貼りづらいので、マッサージや湯たんぽなどで温めるといいでしょう。

意外と夏に体が冷えておられる方を多くみます。冷房にも十分注意して下さい。

また、おかずなどで冷たいものや生野菜などを食べる際には、最初は温かいものを食べて、お腹の中を温めておいてから食べるなど、食べる順番に気をつけましょう。

夏は冷奴やそうめんといった冷たいものが食べたくなります。このような時には、ネギや生姜などの体を温める効果のある食材を薬味に加えることで、冷えの予防になります。

食事をすると体内で熱がうまれるので、朝食も必ず食べましょう。

入浴はそれほど熱くないお湯でじっくり温まりましょう。入浴剤を使って効率よく温まりましょう。

また、夜更かしは禁物です。

下記の食材の摂り過ぎには注意して下さい。

大根・ごぼう・こんにゃく・にんにく・香辛料・アイスクリーム・ビールなど

 

=最後に=

生理痛を代表的なタイプに分類をして紹介してみました。

中医学では、一言に生理痛といってもその原因や病理機序によって分類があり治療法が異なります。

勿論、紹介したタイプの他に、「イライラタイプ」と「血液ドロドロタイプ」が混ざったものや、「血液ドロドロタイプ」の冷えタイプ、「水分代謝障害タイプ」の熱タイプ、「先天的虚弱タイプ」などがあります。

生理痛について、ご質問やご不安のおられる方は、一人で悩まずにお気軽にご相談ください。

最後までお読み頂き有難うございました。 どうぞお大事になさって下さい。

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