頭痛はとても多くの方が経験する痛みの1つで、酷い方になると寝込んでしまったり、救急車をよぶほど辛いものもあります。
なんと約3千万人もの方が、仕事や生活に支障をきたす程の頭痛に悩まされているそうです。ところが、病院で検査を受けても異常が見つからないという方も意外と多いようです。
その様な方は中医学という違う視点から、もう1回ご自分の頭痛を診治してみては如何でしょうか?
また、お医者さんに行くほどではないが、慢性頭痛に悩まされておられる方も是非参考になさって下さい。
それでは多くの方が悩まされている頭痛を中医学ではどのように捉えるか、養生法を含め紹介したいと思います。
尚、今回は上記の趣旨から、風邪を引いた時の頭痛のような、生活の不注意で体を冷やしたり、クーラーや暖房に当たり過ぎて起こるような頭痛ではなく、体の内部の失調により起こる頭痛について紹介をしたいと思います。
また頭痛は何らかの病の随伴症状として現れることがありますが、今回は頭痛を主訴とするものを対象といたしました。
中医学的痛みのメカニズム
では先ず、頭痛の説明に入る前に、中医学による痛みのメカニズムの説明をしたいと思います。中医学では痛みの原因を下記の2つに分類しています。
① 「不通則痛」(通ぜざれば痛む)
健康な体は常に「気」「血」「水」がスムーズに流れているのですが、何らかの原因により、これらが滞ってしまうと痛みが現れることがあります。
この場合の痛みの特徴は、激痛で痛む部位を押したり揉んだりすると嫌な感じがします。また痛みは急に起こることが多いようです。
これらの滞りが頭部で起ると頭痛を発症させます。
この痛み方は、中医学では実証といわれるタイプの病証に多くみられます。
② 「不栄則痛」(栄えざれば痛む)
健康な体は「気」「血」「精」などにより常に栄養されているのですが、何らかの原因により栄養されないと、その部位に痛みが現れます。
多くは「気」「血」「精」などが不足することにより栄養されない場合と、それらの栄養素は不足していないのに、何らかの原因でその部位まで栄養素が届かず、そこだけが栄養不足となりおこる場合があります。
もし頭部で栄養不足が生じたり、全身の栄養不足が頭部に影響すれば頭痛が発症します。
この場合の痛みの特徴は、激しい痛みではなく、痛み自体は軽いことが多いようです。又、揉んだりさすったりするととても気持ちよく感じ、痛みは急ではなく緩慢に発症し、慢性化していることが多いようです。
この痛み方は、中医学では虚証といわれるタイプの病証に多くみられます。
又、実際の場合は「虚実挟雑証」といって、上記の2つのタイプが混ざったものもあります。
さて、中医学では頭痛が何が原因で起こっているのか?
例えば痛みの原因が滞っているのであれば、滞っているのは「気」なのか「血」なのか、あるい「水」なのか?
又、栄養不足なら、不足しているものは、「気」なのか「血」なのか「精」なのか?
などを分析し、それに加え冷えや熱症状の有無を加味して下記の5つのタイプに分類し、そのタイプにより治療法や養生法を使い分けます。
【頭痛のタイプ】
① 『イライラ熱』タイプ
② 『水分代謝障害』タイプ
③ 『血液ドロドロ』タイプ
④ 『貧血・元気不足』タイプ
⑤ 『エネルギー不足』タイプ
では、それぞれ養生法を交えて紹介してゆきましょう。
① 『イライラ熱』タイプ
中医学では「肝陽亢進頭痛」といわれる頭痛です。
このタイプの頭痛は、ストレス性頭痛が多くを占めます。
ストレスがかかると気の流れが滞ってしまいます。長い間ストレスがかかっていたり、度々ストレスがかかってしまうと、気の滞りが長期化してしまい、やがて熱化してしまいます。
その滞りと熱が頭に影響してしまうと頭痛を発症させてしまいます。
「気」の滞りと「熱」による頭痛です。この場合、「熱」が無く、「気」の滞りのみでも頭痛になる事があります。
=頭痛の特徴=
・急激に起る。
・張ったような痛み。
・偏頭痛が多い(片側や両側のこともあったり、片側の方が強い場合もある)。
・痛む部位が移動する。
・痛みが酷い。
・熱感を伴う場合がある。
・冷やすと楽になる。
・緊張したり、ストレスが加わると頭痛が起きたり、症状が悪化する。
=その他の随伴症状=
・眩暈。
・イライラ。
・怒りっぽい。
・不眠。
・胸や脇が張る。
・よくため息をつく。
・口が苦いことがある。
・ガスやゲップがよくでる。
・赤ら顔。
・目の充血。など
=養生法=
このタイプの方は気を流す養生法を実践しましょう。
[ツボ刺激]
「太衝」:気を流す効果の高いツボです。足の甲にあり、親指と人差し指の付け根の骨が交わる所の少し前にあります。
気の流れの悪い方はツボを押している時に、一緒に深呼吸をすると効果が高まります。
※顔や頭に熱感がある場合
「行間」:太衝の前、親指と人差し指の付け根
[食べ物]
牛乳・牡蠣・あさり・しじみ・しゃこ・しらす・かに・みょうが・三つ葉・春菊・パセリ・セロリ・シソの葉・からしな・にら・ねぎ・小松菜・菊花・キャベツ・かいわれ大根・大根・かぶ・ラディッシュ・ザーサイ、みかん・グレープフルーツ・ゆず・キンカン・レモン・しょうが・こしょう・八角・ウイキョウ・ペパーミント・ローズマリー・タイム、など
※中医学ではミントやシソのような香りのあるものが「気」を流すと考えており、ストレス解消に役立つといわれています。
[お茶]
シソ茶・ジャスミン茶・ミントティー・タイムティー・ローズマリーティー・カモミール茶、など
[その他]
・ストレッチや深呼吸などは気を流す働きがあります。
・普段の生活では出来るだけストレスを溜めないようにしたり、ドライブ、ショピング、映画鑑賞など、ご自分にあったストレス発散法をみつけましょう。
・柑橘系の香りは「気」の巡りを改善させます。みかんやレモンの皮などを入浴剤としたり、お部屋の芳香剤としてみてもいいでしょう。また、アロマを代用する方法もあります。
② 『水分代謝障害』タイプ
中医学では「痰濁頭痛」といわれる頭痛です。
飲食の不摂生などにより、消化能力が落ちてしまうと水分代謝が悪くなってしまい、体に不必要な水分が溜まってしまい、それが頭に影響してしまい発症します。「水」の滞りによる頭痛です。
=頭痛の特徴=
・重い痛み。
・痛む部位は移動しない。
・前頭部が痛む。
・お酒や脂っこい物を多く摂った日の後など、飲食と頭痛が関係ある。
・雨や湿気が多いと頭痛が起きたり、痛みが増悪する。
・吐き気を伴う。など
=その他の随伴症状=
・頭がぼんやりする。
・胸苦しい。
・胃脘部のつかえ。
・悪心。
・痰が多い。
・頭や体が重い。
・よく浮腫む。など
=養生法=
このタイプの方は、体内の余分な水を外に出しましょう。
[ツボ刺激]
「陰陵泉」:膝関節の内側のすぐ下で、押すと凹むところです。
「中脘」 : みぞおちとヘソを結んだ線の真ん中です
「足三里」:膝の皿の外側から指4本分下少し凹んだところです。
[食べ物]
はとむぎ・とうもろこし・きゅうり・さやえんどう・セロリ・冬瓜・もやし・白菜・ズッキーニ・ごぼう・そば・ハスの実・小豆・大豆および大豆製品・緑豆・黒豆・えんどう・空豆・ネギ・にら・ニンニク・よもぎ・すいか・すもも・ぶどう・キウイ・メロン・こしょう・山椒・生姜・シナモン・羊肉・鶏肉・あさり・あわび・しじみ・はまぐり・ふな・どじょう・こい・すずき・昆布・のり・わかめ・ところてん、など
[お茶]
プーアール茶・緑茶・紅茶・ウーロン茶・ジャスミン茶・すぎな茶、など
[その他]
・水分のとりすぎには十分注意しましょう。
・冷たい飲み物は避け、喉が渇いた時は出来るだけ温かいものを少しずつ飲みましょう。
・汗をかくと体内の余分な水分が出るので、入浴はあまり熱くない程度のお湯で長めに入り、汗をかくようにしましょう。また、程よい運動で汗をかくのもいいでしょう。
・食べ物には十分注意して、冷たいもの、生ものなどの採りすぎには十分注意しましょう。また、雨に濡れたりしないよう湿気にも十分注意してください。
・体が冷えると水分代謝が悪くなるので、服装も気を付けて下さい。
③ 『血液ドロドロ』タイプ
中医学では「血瘀頭痛」とよばれている頭痛です。
頭部の血流がわるくなり起ります。
また、外傷の後遺症としての頭痛の多くはこのタイプの頭痛です。
「血」の滞りにより起る頭痛です。
=頭痛の特徴=
・比較的強い頭痛。
・慢性で痛む部位は固定している。
・刺すような痛み。など
=その他の随伴症状=
・目の下にくまがよくできる。
・あざができやすい。
・肌の一部が黒ずんでガサガサしている。
・シミや日焼けの痕が残りやすい。
・肌のくすみ・ソバカスが気になる。など
=養生法=
このタイプの方は、血を流す養生法を実践しましょう。
[ツボ刺激]
「血海」:膝の皿の上の内側の角から親指の幅3本分上の所です。
「三陰交」:内くるぶしの上、指4本分で骨際の所です。
両穴とも血を流す効果の高いツボです。やや強めに押しましょう。
[食べ物]
にら・にんにく・にんにくの茎・とまと・セロリ・なす・アスパラ・たまねぎ・ねぎ・らっきょう・しょうが・とうがらし・ピーマン・ほうれん草・かぶ・小豆・黒豆・マグロ・かつお・いわし・さば・こはだ・あじ・さんま・桃・いちご・メロン・酢・カレー・黒砂糖・紹興酒・赤ワイン・日本清酒・焼酎、など
※お酒は少量で、野菜は生野菜だと身体を冷やすので、できれば温野菜がよろしいです。
[お茶]
ウコン茶・ローズティー・シナモンティー・紅花茶・紅茶・くず湯・ハイビスカスティー・田七人参茶、など
[その他]
ストレッチや適度の運動は「血」の滞りを改善しますので、是非行って下さい。
又、長時間座ったり、同じ姿勢でいることは、「血」の巡りを悪くさせますので気を付けてください。
冷えも「血」を滞らせますので注意して下さい。
④ 『貧血・元気不足』タイプ
中医学では「気血両虚頭痛」といわれるタイプです。
気と血が不足してしまった事により、頭部が栄養されないと頭痛がおこります。
過度の疲労や慢性疾患などで「気」を消耗してしまったり
無理なダイエットや胃腸障害などで、「気」「血」が作られないと、「気」「血」が不足してしまい、それが頭部に影響すると頭痛がおこります。
「気・血」の不足により、栄養不足となり起る頭痛です。
=頭痛の特徴=
・痛みはそれ程強くないが、慢性的に痛む。
・疲れると痛みが酷くなる。など
=その他の随伴症状=
・気力の萎え。
・倦怠。
・動くとすぐに疲れて、横になりたくなる。
・顔に色艶がない。
・唇や爪の色に赤みがない。
・息切れや動悸がする。
・めまいやたちくらみがある。
・食欲がなかったり、食後お腹が張って疲労感もある。
・胃腸が弱く、下痢をしやすい。など
=養生法=
このタイプの方は、「気」「血」を増やす養生法を実践しまよう。
[ツボ刺激]
「三陰交」:「血液どろどろタイプ」を参照。
「足三里」:膝関節外側から指4本分下で骨の際にあります。
「中脘」 : みぞおちとヘソを結んだ線の真ん中です
「合谷」 :手の甲で、親指と人差し指が交わる手前のやや人差し指側。
※これらのツボを痛気持ちいいぐらいの力で、長めに押しましょう。
[食べ物]
もち米・うるち米・赤米・はと麦・大麦・小麦・そば・とうもろこし・大豆お
よび大豆製品・空豆・枝豆・ひえ・きび・あわ・人参・じゃがいも・山芋・さ
といも・さつまいも・さやいんげん・かぼちゃ・キャベツ・まいたけ・しいた
け・ほうれん草・ゆりね・れんこん・牛肉・鶏肉・カモ肉・キジ・豚レバー・
牛レバー・羊肉・烏骨鶏・豚肉・赤みの肉・うずらの卵・こい・ふな・どじょ
う・はも・いしもち・えび・たこ・すずき・いか・たちうお・うなぎ・ひらめ・
さめ・貝柱・すっぽん・なまこ・きくらげ・なつめ・いちじく・ピーナッツ(赤
皮付き)・桑の実・ライチ・松の実・アボガド・パイナップル・ブルーベリー・
さくらんぼ・桃・ぶどう・牛乳・たまご・プルーン、など
[お茶]
なつめ茶・ほうじ茶・杜仲茶・麦茶・はとむぎ茶・あしたば茶・マテ茶、など
[その他]
過労は禁物です。また、「気」「血」は食べ物によって作られますので、上記を参考にきちんとしたバランスの良い食事をして下さい。特に生理中~生理後は「血」を消耗していますので注意が必要です。
また、食事だけでなく睡眠もきちんととって下さい。夜更かしは禁物です、いくら睡眠時間が多くても、中医学では夜中の12時前に寝ないと良い睡眠とはいいません。
⑤ 『エネルギー不足』タイプ
中医学では「腎虚頭痛」といわれるタイプです。
腎には人間が生きてゆくために必要なエネルギーが溜められています。頭部は腎に蓄えられているエネルギーからも栄養されています。
疲労・長患い・加齢・生まれつき腎が弱い・節度の無い性行為などで、腎のエネルギーは消耗してしまいます。
腎の蓄えてあるエネルギー不足により、頭部が栄養されずに起こるタイプの頭痛です。
=頭痛の特徴=
・痛みはそれ程酷くないが、慢性的に痛む。
・痛みは空虚な感じ。など
=その他の随伴症状=
・腰痛。
・膝がだるい。
・精神疲労。
・めまい。
・気力の萎え。
・精子が漏れる。
・ジーという低い耳鳴り。
・不眠。
・排尿障害。など
=養生法=
[ツボ刺激]
「三陰交」:「血液どろどろタイプ」を参照。
「太谿」 : 内くるぶしとアキレス腱の間にある凹んだ所。
「関元」 : おへそから指4本分下。
「百会」 :頭のてっぺんにあります。鼻の頭から頭に伸ばした線と、両耳の一番高い所から真上に伸ばし、先程の線と交わる所。
※これらのツボを痛気持ちいいぐらいの力で、長めに押しましょう。
[食べ物]
高麗人参・やまいも・山伏茸・ナッツ類・羊肉・牛肉・鶏肉・卵黄・もち米・黒米・黒豆・なた豆・えび・なまこ・黒ごま・黒キクラゲ・こんぶ、など
一般的に中医薬膳では、黒い食材は腎を補うものが多いとされております。
[お茶]
高麗人参茶など
[その他]
過労は禁物です。もし運動をするならウォーキングやストレッチなどの運動がよいでしょう。
休養と食事をしっかりと摂りましょう。
《最後に》
冒頭でも書きましたが、頭痛に悩まされておられる方は少なくありません。
また、現代医学の検査では原因のわからない頭痛もかなり多くあります。
もし、原因不明の頭痛でお悩みの方、あるいはお医者さんに行く程ではないが慢性頭痛でお悩みの方、お一人で悩まずにお気軽にご相談下さい。
一緒に原因をみつけましょう。
最後までお読み頂き有難うございました。どうぞお大事になさって下さい。