大人の方であれば少々の倦怠感を経験したことのある方が殆どだと思いますが、ここで紹介する倦怠感はそのようなものではなく、常にだるくてだるくてしょうがないといった、病的なものを指します。
中医学では、「怠情」「疲乏」などともいわれ、疲れて動きたくなくなるという自覚症状を主とした肉体的、精神的な訴えで、全身の無力感・局所のだるさ・両足の無力感・思考力低下・眼精疲労・視力低下・めまい・手足のふるえなどいろいろな症状があります。
主な原因としては、出産・大病や慢性病・精神疲労・過労・飲食物の不摂生・暑さ・性行為の過多などが原因となり、「気・血・水・精」などの不足や循環不良が疲れを招いてしまいます。(「気・血・水」については、『入門編』をご覧下さい。)
今回は、倦怠感の色々なタイプのなかから一般的で代表的な3タイプを紹介したいと思います。(尚、鬱病などの精神的なものからくる倦怠感は、今後各々の症例のところで紹介します。)
【代表的な倦怠感のタイプ】
① 『暑さ負け』タイプ
② 『虚弱・息切れ・貧血』タイプ
③ 『胃弱・水分代謝障害』タイプ
④ 『虚弱・エネルギー不足』タイプ
ではそれぞれについて養生法も交えて紹介をしていきます。
① 『暑さ負け』タイプ
中医学では「暑熱傷気証」というタイプで、代表的なものとしては「夏バテ」があります。
中医学では、『暑』や『熱』は「気」を消耗させると考えます。
また、熱いと汗も通常より多くかいてしまいますが、「気随液脱」といって汗や血が大量に体外に出てしまうと、「気」も一緒に体外に出てしまいます。
このように、平常より暑い状態では、「気」が消耗したり、体外に漏れ出てしまいます。
「気」は人間が活動をするための原動力になりますので、上記の様な状態だと倦怠感をおぼえます。
=症状の特徴=
・呼吸が浅く、言葉に力がない。
・体が熱く、汗が出る。
・イライラして、喉が渇く。など
=養生法=
このタイプの方は熱を下げて、気を補う養生法を実践しましょう。
[ツボ刺激]
「曲池」:肘の外側で、肘を曲げると出来る横ジワの外端の所 。
「合谷」:手の甲で、親指と人差し指の付け根の骨が交わる手前、やや人差し指寄り。
両つぼとも熱を下げる効果があります。
[食べ物]
《熱を下げる食べ物》
大麦・小麦・はと麦・あわ・とうもろこし・すいか・きゅうり・ズッキーニ・にがうり・サニーレタス・トマト・なす・とうがん・ごぼう・たけのこ・ほうれん草・セロリ・もやし・みょうが・大根・青梗菜・緑豆・あずき・そば・そうめん・こんにゃく・豆腐・豆乳・春雨・プラム・パイナップル・ブルーベリー・バナナ・グレープフルーツ・メロン・キウイ・柿・梨・みかん・あさり・しじみ・かに・はも・昆布・のり・わかめ・ピータン・ミント・ごま油・醤油・塩、など
《気を補う食べ物》
もち米・うるち米・そば・あわ・ひえ・きび・大麦・はと麦・小麦・やまいも・ながいも・まいたけ・しいたけ・人参・じゃがいも・さといも・さつまいも・さやいんげん・キャベツ・かぼちゃ・とうもろこし・玉ねぎ・セロリ・にんにく・なつめ・青じそ・しょうが・みょうが・大豆および大豆製品・枝豆・空豆・オクラ・鶏肉・牛肉・かも肉・兎肉・ワカメ・梅干し・しじみ・いか・たこ・あじ・うなぎ・すずき・こい・ふな・いしもち・えび・貝柱・パイナップル・さくらんぼ・桃・ぶどう・酢、など
[お茶]
緑茶・ウーロン茶・プーアール茶・ハイビスカスティー・はちみつ緑豆湯・なつめさんざし茶・はと麦茶、など
[漢方薬]
清暑益気湯
[その他]
夏は水分を摂り過ぎ、かつ食欲は落ちてしまい栄養が採れず体力が落ちてし
まっている方も多くいらっしゃいます。このような時は、カレーがおすすめで
す。実はカレーのスパイスには数千年も前から薬として使われてきたものが沢
山入っているので、薬膳の効果があるのです。
カレーは「胃腸の働きの促進」「血行促進」「発汗」などの効果があります。
カレー粉を使えば、チャーハンやドレッシングなどにも応用できます。
又、酢も食欲・消化促進の効果がありますので、酢の物や、フルーツなどを使
ったサワードリンクなどを飲まれるのもいいでしょう。
また、夏が旬の野菜や瓜類、フルーツは基本的に体を冷やす効果があるものが多いようです。
② 『虚弱・息切れ・貧血』タイプ
中医学では「気血両虚証」といわれるタイプで、「気血」の不足により起こります。
慢性病により気血を消耗したり、病後や産後などで気血が回復していない状態で、「気」と「血」が不足しているタイプです。
「気」が活動の原動力となっているのは、「暑さ負け」タイプで説明しましたが、「血」は全身を栄養しています。
「気」の不足は原動力不足・「血」の不足は栄養不足となり、倦怠感を招きます。
=症状の特徴=
・顔色が青白いか土気色。
・唇の色が薄い。
・立ちくらみ・めまい・ふらつき。
・動悸。
・月経量が少ない。
・動くとすぐに疲れて、横になりたくなる。
・すこし動くと、すぐ汗がでる。
・唇や爪の色に赤みがない。
・息切れ。
・疲れているのに眠れないという事もある。
・夜症状が悪くなる。など。
=養生法=
このタイプの方は、「気」「血」を増やす養生法を実践しまよう。
[ツボ刺激]
「三陰交」:内くるぶしの上、指4本分で骨際の所です。
「足三里」:膝関節外側から指4本分下で骨の際にあります。
両ツボとも気持ちいいぐらいの力で、長めに押しましょう。
[食べ物]
《気を補う食べ物》:「暑さ負け参照」
《血を補う食べ物》
あわ・小麦・人参・にら・ほうれん草・黒豆・黒米・赤米・ひじき・ライチ・サクランボ・竜眼肉・松の実・きくらげ・なつめ・豚肉・羊肉・烏骨鶏・軟骨付きの肉・豚足(皮付き)・牛レバー・羊レバー・豚レバー・プルーン・すっぽん・なまこ・すずき・うなぎ・あなご・いしもち・たちうお・かき・ふな・ふかひれ・えいひれ・黒ごま・まつの実・くるみ・ピーナッツ・牛乳・卵・黒砂糖、など
[お茶]
なつめ茶・杞枸茶・ほうじ茶・杜仲茶・麦茶・はとむぎ茶・あしたば茶・マテ茶など
[漢方薬]
十全大補湯・養血安神丸
[その他]
過労は禁物です。また、「気」「血」は食べ物によって作られますので、上記を参考にきちんとしたバランスの良い食事をして下さい。
また、食事だけでなく睡眠もきちんととって下さい。夜更かしは禁物です、いくら睡眠時間が多くても、中医学では12時前に寝ないと良い睡眠とはいいません
また、このタイプの方は朝より夕方の方が疲れを強く感じる事が多いので、夕方以降はのんびり過ごすのもいいでしょう。
③ 『胃弱・水分代謝』タイプ
中医学では「脾虚湿困証」といわれるタイプです。
飲食の不摂生(生もの・冷たいもの・甘いもの・脂っこいもの・味の濃いもの・お酒の摂り過ぎ)や、過労や過度の思い悩みは「脾」の働きを弱めてしまいます。「脾」とは内臓の一つで、飲食物を吸収して、「気」「血」を造っています。
「脾」の働きが悪くなってしまうと、「気」「血」が造られなくなってしまったり、水分も吸収できなくなってしまうので、水分代謝が悪くなり身体の中に余分な水分が溜まってしまいます。
洋服など普段はなんでもないのですが、水に濡れるとたいへん重くなり、とても着てはいられません。このように水は物を重くする性質があります。
「気」「血」が造られないだけでも倦怠感をおぼえるのに(「虚弱・息切れ・貧血」タイプを参照)、水分代謝が悪くなることで、余計な水分が体内に溜まっているので体が重くなり、更に倦怠感は増してしまいます。
=症状の特徴=
・食欲がない。
・食後は胃腸が張って疲れる。
・体が重くてだるい。
・むくみ(特に下半身)。
・口が粘る。
・軟便傾向。
・雨の日やその前日は特に体が重い。
=養生法=
このタイプの方は、「脾」を強くすることにより、体内の余分な水分を取り除き、気を補う養生を実践しましょう。
[ツボ刺激]
「陰陵泉」:膝関節の内側のすぐ下で、押すと凹むところです。
「中極」 :臍と恥骨の間を5等分し、恥骨から上に5分の1の所。
「足三里」:「虚弱・息切れ・貧血タイプ」を参照
[食べ物]
《気を補う食べ物》:「暑さ負け参照」
《脾を強くする食べ物》
はと麦・あわ・山芋・なつめ・ライチ、など
《余分な水分を取り除く食べ物》
すいか・いちご・すもも・ぶどう・キウイ・メロン・白菜・きゅうり・セロリ・とうがん・はと麦・とうもろこし・あずき・ごぼう・もやし・ズッキーニ・鴨肉・そば・はすの実・小豆・大豆および大豆製品・緑豆・黒豆・えんどう・そら豆・あさり・あわび・しじみ・はまぐり・ふな・どじょう・こい・すずき・こんぶ・のり・わかめ・ところてん・、など
[お茶]
プーアール茶・緑茶・紅茶・ウーロン茶・ジャスミン茶・グアバ茶・杜仲茶、など
[漢方薬]
昇陽益胃湯
[その他]
・水分のとりすぎには十分注意しましょう。
・冷たい飲み物は避け、喉が渇いた時は出来るだけ温かいものを少しずつ飲みましょう。
・汗をかくと体内の余分な水分が出るので、入浴はあまり熱くない程度のお湯で長めに入り、汗をかくようにしましょう。また、程よい運動で汗をかくのもいいでしょう。
・食べ物には十分注意して、冷たいもの、生ものなどの採りすぎには十分注意しましょう。また、雨に濡れたりしないよう湿気にも十分注意してください。
・体が冷えると水分代謝が悪くなるので、服装も気を付けて下さい。
=最後に=
最後までお読み頂き有難うございました。
倦怠といっても色々なタイプがあるのがおわかりになったと思います。
今回紹介したタイプはほんの一部で、実際にはもっと沢山のタイプがあります。
現代人は皆疲れていると言われますが、病的な疲れは治療が必要です。
当院にも倦怠が主訴の患者さんが数名いらしております。
あまりにも疲れが酷いという方は、重くなる前に一度専門家に相談することを
おすすめします。
最後に、ここでご紹介した養生法は一般的なものです。現在通院等をされてお
られる方は、担当の先生にご相談されてから実践して下さい。
それでは、どうぞお大事になさって下さい。