電車やバスあるいは街などを歩いていると軽重の差はあるもののアトピーの患者さんによく出会います。とても有名な皮膚炎でかなり多くの方が悩んでおられます。
慢性的に湿疹病変を繰り返す皮膚の病気で、酷い方になると普段の生活にまで支障がおよんでしまう場合もあります。
おそらくこのページを読まれている方は、西洋医学的な解説はすでにご存知でしょうから、早速中医学的なお話に入ります。
中医学では症状によっていくつかのタイプに分類します。
ここではその中から、代表的な物を紹介します。
【代表的なアトピー性疾患のタイプ】
① 「ジクジク」タイプ
② 「粉吹き乾燥」タイプ
③ 「出血・カサブタ」タイプ
④ 「イライラ・血液代謝障害」タイプ
ではそれぞれについて養生法も交えて紹介します。
① 『ジクジク』タイプ
このタイプのアトピーは、体内に余分な水分があることから起こります。
一番の特徴は、患部がジクジクしていて、白や黄色あるいは透明な液体が出てきます。
更に、このタイプは、症状により
「虚弱・水分代謝異常」型 と「熱」型に分かれます。
a) 「虚弱・水分代謝異常」型
中医学では、「脾虚湿盛」といわれるタイプです。
「脾虚」とは内臓の「脾」の働きが低下している状態をいい、「湿盛」とは体内に余分な水分が溜まって人体に悪い影響をおよぼしている状態をさします。
「脾」は、体内の水分代謝に関わりますので、脾の働きが低下すると体内に余分な水分が溜まってしまい、その水分が様々な悪影響をおよぼします。その一つにこのタイプのアトピーがあります。熱の症状も出ることもありますが、それよりも水分代謝の障害の症状が強く現れます。
=症状の特徴=
・皮疹の色は暗紅色
・ジクジクしていて、液体が多く出る
=その他の随伴症状=
・食欲不振
・軟便傾向
・食後にお腹が張る
・気力の萎え
・顔色が黄色、など
=養生法=
このタイプの方は脾を強くして、湿気をとる養生法を実践しましょう。
[ツボ刺激]
「陰陵泉」:膝の関節の内側のすぐ下で、少し力をいれて押すと凹む所
※脾を強くし、余分な水分を取り除く効果があります。
[その他]
・過労は禁物です。
・睡眠もしっかりとりましょう。
・汗は体内の余分な水分を排出してくれますので、適度の運動により、汗をかきましょう。
b) 「熱」型
中医学では「湿熱証」といわれるタイプで、上記の「虚弱・水分代謝異常」タイプに更に熱症状が加わったタイプです。
=症状の特徴=
「虚弱・水分代謝異常」タイプの症状に加え
・患部に熱感がある
・皮疹の色は紅斑
・黄色の液体がでる
=養生法=
このタイプの方は「虚弱・水分代謝異常」の養生法に熱を下げる養生法も加えましょう。
[ツボ刺激]
「陰陵泉」:膝の関節の内側のすぐ下で、少し力をいれて押すと凹む所。
「曲池」:肘の関節の外側で、肘を曲げた時にできる横ジワの先端。
「合谷」: 手の甲で、親指と人差し指の骨の交わる手前、やや人差し指寄り。
※「陰陵泉」は余分な水分を取り除いてくれます。
※「曲池」「合谷」は熱を下げてくれるツボです。強めにおしましょう。
〔その他〕
油こいもの・甘いもの・味の濃いもの・辛いもの・お酒の摂りすぎは、体内で
余分な水分と熱をうみます。摂りすぎに注意しましょう。
② 『粉吹きカサカサタイプ』
このタイプは更に「貧血」型と「のぼせ・ほてり」型に分かれます。
両者の特徴としては、局部はあまりジクジクしておらず、カサカサしています。あるいは、肌が粉をふいてる感じの方もおられます。
a)「貧血」型
「気・血・水」の「血」が不足しているタイプです。(「気・血・水」については、『入門編』をご覧下さい。)
中医学では、「血虚生風」といわれるタイプです。
「貧血型」といっても、西洋医学の貧血とは少し違い、中医学で考える、「血」が不足して起こるタイプです。
中医学では、長患いをすると「血」を消耗すると考えます。又、先程紹介した「脾」の働きが弱くなると、「血」が造られず、「血」の不足をおこします。
それ以外には、出産時の大量出血、痔核による慢性出血、長期にわたる不正出血、あるいは中医学では、目や精神も「血」によって栄養されると考えるので、目の使い過ぎや、心労も「血」を消耗します。
上記のような原因により、「血」の不足が起こり、アトピーを発症させているタイプです。
=症状の特徴=
・皮膚が乾燥してカサカサする
・皮膚に赤みや熱感はない
=その他の随伴症状=
・顔色が悪い
・立ちくらみ
・爪や唇の色が淡白
・動悸
・抜け毛、
・不眠や不安感がある方もおられます。
=養生法=
このタイプの方は、「血」を補う養生を実践しましょう。
[ツボ刺激]
「三陰交」:内くるぶしの上、指4本分で骨際の所です。
「血海」:膝を軽く曲げ、膝の皿の上の際の内則から上に指の幅2本分の所。
(太ももの内側で一番下の膝に近いところあたりになります。)
※痛気持ちいい程度の強さで押しましょう。
[その他〕
睡眠をしっかりとって下さい。
さらに、目や脳を酷使すると「血」を消耗しますので、注意してください。
b)「のぼせ・ほてり」型
「気・血・水」の「水」が不足しているタイプです。(「気・血・水」については、『入門編』をご覧下さい。)
中医学では、「陰虚内熱」といわれます。
簡単に言えば、「冷却水不足」で、熱を抑えることが出来ない状態です。
=症状の特徴=
・皮膚の乾燥がすすみ、カサカサしてくる
・皮膚が黒みお帯び、皮膚が剥がれる
・夕方から夜間に皮膚に熱感や痒みがおこる
=その他の随伴症状=
・手のひらや足の裏のほてり
・寝汗
・頬が赤い、などの症状が現れる。
=養生法=
このタイプの方は、体が潤う養生法を実践しましょう。
[ツボ刺激]
太谿:内くるぶしのすぐ後ろ、アキレス腱の脇のへこんだところ。
復溜:太谿から指の幅3本分上、アキレス腱の前
※痛気持ちいい程度の力で押しましょう。
[その他]
・辛い物・味の濃いもの・油こいもの・甘いものの摂りすぎは、体内で熱をうみ症状を悪化させますので注意して下さい。
・体の温め過ぎや、冷やし過ぎに注意してください。
・中国漢方では、甘い味と酸っぱい味の組み合わせは、体が潤うといわれますので、甘味と酸味を上手に組み合わせて料理をしてみましょう。
・体を潤す力は、夜12時より前の時間の睡眠により作られます。夜更かしは禁物です。
・サウナや過剰な運動などによる、汗のかきすぎに注意して下さい。
③ 『出血・カサブタ』タイプ
中医学では「血熱生風」といわれるタイプで、「血」に熱が入り込んでしまったために起こります。
先程紹介したタイプの中で、「熱性」のタイプが進展して起ったり、ステロイドなどの使い過ぎにより、体内に熱がこもり、「血」に影響しておこります。
また、ストレスや辛い物や高カロリーの摂りすぎ、夜型の生活などが原因となる場合もあります。
=症状の特徴=
・皮膚は充血している
・赤く腫れ上がって場合もある
・熱感がある
・掻くと出血する
・いつの間にかカサブタができている
=その他の随伴症状=
・歯茎からの出血や鼻血が出やすい。
・イライラ
・のぼせ・ほてり
・便秘
・女性の場合は、
不正出血(月経血は鮮やかな色)
生理が早まる
月経血の量が多い、など
=養生法=
漢方や針では、「涼血」といって、血の中の熱をとる治療をします。
家庭では基本的に体内の余分な熱をとる養生法を実践するといいでしょう。
[ツボ刺激]
三陰交:内くるぶしの上端から指4本分上に行ったところで、骨際にあります。
血海:膝を軽く曲げ、膝の皿の上の際の内則から上に指の幅2本分の所。(太ももの内側で一番下の膝に近いところあたりになります。)
曲池:肘の関節の外側で、肘を曲げた時にできる横ジワの先端
合谷: 手の甲で、親指と人差し指の骨の交わる手前、やや人差し指寄り。
※いずれも強めに押して下さい。
[その他]
夜更かしは禁物です。煙草もできるだけ減らして下さい。
④ 『イライラ・血液代謝障害』タイプ
中医学では「気滞血瘀」と言われるタイプです。
「血」は、「気」の力により体内を循環できていると考えるので、過度のストレスなどの原因で、「気」が滞ってしまうと、その影響が「血」にまでおよび、「血」まで滞ってしまうことがあります。このように「気」も「血」も両方とも滞ってしまっている状態を「気滞血瘀」といいます。
=症状の特徴=
・患部の色素沈着
・イライラすると症状悪化
=その他の随伴症状=
・精神抑鬱
・イライラして怒こり易い
・胸や脇が張るような感じや痛みがある。
・女性は生理前に胸が張ったり、月経血に血塊が混じる。
など
=養生法=
このタイプの方は、「気」と「血」を流す養生法を実践しましょう。
[ツボ刺激]
三陰交:内くるぶしの上端から指4本分上に行ったところで、骨際にあります。
太衝:足の甲で、親指と人差し指の根元の骨が交わるところの手前
「三陰交」は「血」の巡りを「太衝」は「気」の巡りを改善してくれます。
[その他]
・このタイプの方はストレスを溜めるのはよくありませんので、ドライブ・ショッピング・映画鑑賞など、ご自分にあったストレス発散法を身につけましょう。
・柑橘系の香りは「気」を流してくれるのでストレス解消の働きがあります。みかんや檸檬の皮など、入浴剤や芳香剤として上手に使いましょう。
・ストレッチは「気」や「血」を流してくれます。気が付いたら簡単なストレッチでよいのでやってみましょう。逆に、長い時間同じ姿勢でいるのは、「気」や「血」を滞らせてします、長時間の運転やデスクワークをされる方は、時々ストレッチなどをして、体をほぐしましましょう。
=最後に=
上記の他にもアトピーのタイプはまだまだありますが、今回は代表的なアトピ
ーのタイプを紹介しました。
アトピーは、お薬や治療ももちろん大事ですが、食生活や日常生活が治療効果
を左右します。担当の先生に食生活や日常生活についてもよくアドバイスを受
けてください。
又、妊娠中や授乳期に、お母さんがあまり望ましくない食生活や日常生活を送
ると、その影響がお子さんにアトピーとして現れることが少なくありません。
妊娠中や授乳期のお子さんをお持ちの方は食生活や日常生活には十分注意しま
しょう。
さらに、「イライラ・血液ドロドロ」タイプでもわかるとおり、アトピーと精神
状態は密接に関係します。特にお子さんのアトピーには、ご本人の精神状態が
強く影響することがよくあります。
例えば、お子さんのアトピーについてお母様があまりにも神経質になってしま
うと、お子さんにもそれが伝わりストレスとなり、アトピーが悪化するという
ことが少なくありません。お母様はお子さんには出来るだけ大らかに接して、
お子さんに過度なストレスを与えないように注意しましょう。
最後に、上記の理由から、アトピーの治療にはご家族の協力も必要になってま
いります。アトピーをお持ちの方がご家族におられる場合は是非ご協力をお願
いいたします。
不明な点・ご質問がありましたら、お一人で悩まずにお気軽にご相談下さい。
最後までお読みになって頂き有難う御座いました。どうぞお大事になさって下さい。