一般に正常な月経は、ほぼ1カ月に1回のペースであります。
月経1日目から、次の月経前日までの期間は概ね25日~38日位が正常といわれており、この期間を月経周期とよびます。
通常は28日間といわれていることが多いようです。
現代医学では月経の乱れについて、月経周期が24日以下のものを「頻発月経」、
39日以上90日未満のものを「稀発月経」といいます。
中医学では、月経周期の異常を総称して「月経不調」といい、臨床上では下記の分類をいたします。
①月経周期が早まることを『月経先期』(早経)
②月経周期が遅れることを『月経後期』(経遅)
③月経周期が早くなったり遅くなったりすることを、『前後不定期』(経乱)といいます。
ここでは、①の『月経先期』(早経)について紹介します。
月経先期とは月経周期が25日より短いタイプをいいます。
酷い場合は1カ月に2回も月経がくることもあります。
月経先期はその原因や病理機序により幾つかのタイプに分かれます。
今回は代表的な4つのタイプを紹介します。
Ⅰ、『熱盛タイプ』
Ⅱ、『イライラタイプ』
Ⅲ、『冷却不足タイプ』
Ⅳ、『エネルギー不足タイプ』
中医学では、早経の主な原因を体内の余分な熱や気の不足と考えております。
上記のⅠ~Ⅲは熱による早経で、Ⅳは気の不足による早経です。
熱による早経のタイプが3つもあるのは、一言に熱といっても原因や熱がうまれる機序は数通りあり、その違いにより治療法や養生法が異なるからです。
それでは各タイプを養生法と伴に紹介してゆきましょう。
Ⅰ:『熱盛タイプ』
皆さんはお風呂に長くつかると、のぼせて鼻血が出るのを経験的にご存知だと思います。
中医学では体に熱がこもり、その熱が血へ影響を及ぼすと鼻血などの各種出血症状を引き起こすと考えております。
また、辛い食べ物の食べ過ぎも体内で余分な熱をうんでしまいます。
もともと熱がこもりやすい体質の方が、辛い物などを食べ過ぎると、体内では普通の方より熱がこもってしまいます。
この熱が子宮の血に影響が及んでしまうと、出血傾向になり通常の生理より早く出血がおこります。
《生理の特徴》
出血量が多く出血の色は鮮紅又は紫紅で血液は粘りがある。
《随伴症状》
胸がほてりイライラする・喉や口が渇き冷たいものを飲みたい・小水は少なめで黄色い・便秘ぎみ、など
=養生法=
怒ったり、イライラすると体内で熱がうまれてしまいます。できるだけリラックスできる方法をみつけ、一日に一回はリラックス出来る時間をつくりましょう。
※※食養生※※
辛いもの・油っこい物・味の濃いものやお酒は、体内で熱になりますので、摂り過ぎには十分注意しましょう。
また、食べ過ぎも熱になりますから注意して下さい。どうしてもお腹が減る場合は、食事の回数を増やして対処しましょう。
以下はこのタイプの方におすすめの食材です。参考になさって下さい。
大麦・あわ・とうもろこし・はとむぎ・小麦・そば・緑豆・豆腐・かに・あさり・ところてん・昆布・のり・わかめ・しじみ・きゅうり・とうがん・ズッキーニ・にがうり・レタス・白菜・セロリ・なす・たけのこ・ごぼう・大根・ちんげん菜・トマト・キウイ・スイカ・レモン・梨・メロン・バナナ・柿、など
[お茶]
緑茶・ウーロン茶、など
《ツボマッサージ》
・関元:臍の下指4本分の所です。
・血海:膝の皿の上の内側の角から親指の幅2本分上の所です。
・曲池:肘の外側で、肘を曲げると出来る横ジワの外端の所
Ⅱ:『イライラタイプ』
よく「あの人と一緒にいると気がつまる」などと言う方がいらっしゃいますが、中医学ではストレスなどが体に加わると、本来はスムースに流れていなければいけない気が渋滞を起こしてしまいます。
中医学では、気が渋滞していることを「気が滞る」といい、「気滞(きたい)」といいます。
気には体を温める働きがあるので、気が渋滞してしまうと熱化してしまうことがあります。
この状態を「気鬱化火」といいます。
また、肝はストレスをとても嫌う臓器で、気を流す働きがあるので、ストレスがかかると先ず肝の気が渋滞を起こします。
このことから、「肝鬱化火」ともいわれます。
この肝鬱化火によりうまれた熱が子宮の血に影響が及ぶと、出血傾向になり通常の生理より早く出血がおこります。
《生理の特徴》
出血量は多かったり少なかったりし、出血の色は紅か紫で血液は粘りがあり、血塊が混じることもある。
生理痛は、痛みより乳房や胸脇お腹の張りが強く、特に生理前が酷い。
すっきり来朝しない。
《随伴症状》
イライラして胸がほてる感じがする・怒り易い・口が苦い・情緒不安定(特に生理前)・ゲップやおならが出やすい、など
=養生法=
出来るだけストレスを溜めないようにしましょう。
このタイプは気が滞っている方が多いので、気を流す養生法を実践しましょう。
・ストレッチや深呼吸などは気を流す働きがあります。
・普段の生活では出来るだけストレスを溜めないようにしたり、ドライブ、ショピング、映画鑑賞など、ご自分にあったストレス発散法をみつけましょう。
小説や映画などを見て笑うのは勿論のこと、思い切り泣くこともストレス発散になります。
・柑橘系の香りは「気」の巡りを改善させます。みかんやレモンの皮などを入浴剤とした
り、お部屋の芳香剤としてみてもいいでしょう。また、アロマを代用する方法もあります。
・生活リズムも出来るだけ規則正しくし、精神も出来るだけ安定させるように心がけましょう。
※※食養生※※
以下はこのタイプの方におすすめの食材です。参考になさって下さい。
あわ・牛乳・わかめ・かに・牡蠣・あさり・しじみ・しゃこ・しらす・みょうが・三つ葉・春菊・パセリ・セロリ・シソの葉・桑の葉・からしな・にら・ねぎ・にがうり・白菜・きゅうり・トモト・小松菜・菊花・キャベツ・かいわれ大根・大根・かぶ・ラディッシュ・ザーサイ、みかん・グレープフルーツ・ゆず・キンカン・レモン・しょうが・こしょう・八角・ウイキョウ・ペパーミント・ローズマリー・タイム、など
※中医学ではミントやシソのような香りのあるものは「気」を流すと考えており、ストレス解消に役立つといわれています。
[お茶]
シソ茶・ジャスミン茶・ミントティー・タイムティー・ローズマリーティー・カモミール茶・緑茶・菊花茶、など
《ツボマッサージ》
このタイプの方は、ツボを押しながら深呼吸もすると更に効果が高まります。
・関元:「熱盛タイプ」を参照
・血海:「熱盛タイプ」を参照
・行間:足の甲で、親指と人差し指のつけ根の間
Ⅲ:『冷却不足タイプ』
このタイプの方は、体を冷やす力が弱ってしまい、熱がうまれてしまっています。
このような冷却不足により生まれた熱を中医学では陰虚熱とよんでいます。
この陰虚熱が子宮の血に影響が及ぶと、出血傾向になり通常の生理より早く出血がおこります。
《生理の特徴》
出血量は少なく、出血の色は紅で血液は粘りがある。
《随伴症状》
頬が赤い・胸や手足のひらがほてる・寝汗・不眠・喉が渇くが特に飲み物は欲しない・不眠・夕方から夜に発熱がある
=養生法=
このタイプの方は、潤いを増す養生法を実践しましょう。
・身体を潤す力は、夜の12時前の睡眠により作られます。夜更かしはせず、12時前には寝るようにしましょう。
・熱いお風呂はのぼせを悪化させますので、ぬるめの温度設定にしましょう。また、このタイプの方はサウナは向きません。
※※食養生※※
辛い物の摂り過ぎはのぼせを悪化させますので注意して下さい。
以下はこのタイプの方におすすめの食材です。参考になさって下さい。
とうがん・トマト・きゅうり・山芋・すいか・梨・メロン・リンゴ・ぶどう・柿・夏みかん・いちご・白きくらげ・ゆり根・くわの実・はちみつ・牛乳・なまこ・豚足など
[お茶]
緑茶・ウーロン茶・菊花茶など
《ツボマッサージ》
・関元:「熱盛タイプ」を参照
・血海:「熱盛タイプ」を参照
・三陰交:内くるぶしの上、指4本分で骨際の所です。
・太谿:内くるぶしとアキレス腱の間
・復溜:内くるぶしから、指3本上で、骨とアキレス腱の間
これらのツボを痛気持ちいい位の力で押しましょう。
Ⅳ:『エネルギー不足タイプ』
気の働きの1つに「固摂」という作用があります。これは、血・汗・尿・精子といった体内の水液を過剰に体外に漏れ出させない働きです。
なんらかの原因で、気が不足してしまうと、この固摂作用が低下してしまい出血傾向になり通常の生理より早く出血がおこります。
特に血を漏れ出させないようにしているのは脾の気が行っております。
《生理の特徴》
出血量は多く、色は淡い。血液は粘り気がなくサラサラしている
《随伴症状》
精神疲労・息切れ・動悸・下っ腹に空虚感や下垂感がある・疲れやすい・食欲不振・軟便傾向または下痢ぎみ・食後に疲労感や胃がもたれる・
=養生法=
・このタイプの人はエネルギーを過剰に消費すると症状が悪化してしまいます。
寝不足・過剰な肉体、精神疲労は出来るだけ避けましょう。
・エネルギーは食べ物から作られますので、出来るだけ食事はちゃんと摂りましょう。ただし、飲食物を消化するのにもエネルギーは消耗しますので、無理をして食べる必要はありません。下記の食養生を参照に効率よくエネルギーを補充しましょう。
また消化の良いものを食べるようにしましょう。
※※食養生※※
以下はこのタイプの方におすすめの食材です。参考になさって下さい。
ひえ・きび・あわ・もち米・うるち米・はとむぎ・大麦・小麦・そば・はすの実・大豆・とうもろこし・大豆・空豆・枝豆・牛肉・鶏肉・鴨肉・こい・ふな・いしもち・えび・すずき・いか・貝柱・まいたけ・しいたけ・人参・山芋・じゃがいも・さといも・さつまいも・さやいんげん・かぼちゃ・キャベツ・なつめ・パイナップル・さくらんぼ・桃・ぶどう・栗、など
[お茶]
麦茶・ほうじ茶・杜仲茶・はとむぎ茶、など
《ツボマッサージ》
・関元:「熱盛タイプ」を参照
・血海:「熱盛タイプ」を参照
・足三里:すねの外側で、膝の関節から指4本分下で骨よりの筋肉が盛り上がっているところ。
今回は代表的な月経先期のタイプと養生法を紹介いたしました。
今回紹介させて頂いたタイプはあくまで代表的なもので、実際はこれら以外のタイプの
ものや、幾つかのタイプが混ざっているものもあります。
ご質問等がございましたら、お気軽にご相談ください。
最後までお読みいただき有難うございました。
どうぞお大事になさって下さい。