一般に食べた物は24~72時間程で排便されます。
お通じが3日以上なかったり、毎日あったとしても、便が硬く量が少なく残便感がある状態を便秘といいます。
また、便秘はお通じだけでなく、お腹が張ったり、肌荒れやニキビといった他の症状を引き起こす原因にもなります。
便秘自体は、病気ではありませんが、便秘には別の病気が隠れている場合もあるので、血便や腹痛を伴う便秘や、急に便秘を繰り返すようになった方は、一度消化器内科や肛門科を受診しましょう。
排便に直接関与する臓器は大腸です。
大腸の働きは胃や小腸から送られてきた粥状の消化物から水分を吸収し、残ったものを肛門へと運び大便として排泄しています。
ここに何らかの異常が生じると便秘になります。
では先ず、現代医学の視点から便秘の種類と原因を簡単に紹介します。
【現代医学的、便秘の種類と原因】
便秘の直接的な原因は大腸の運動(蠕動運動)の不調にあり、その誘因には不規則な食事・運動不足・睡眠不足・ストレス・女性ホルモン・腸の疾患などがあげられます。
便秘の種類は、大きく「機能性便秘」と「器質性便秘」に分けられ、さらに「機能性便秘」は、「弛緩性」「痙攣(けいれん)性」「直腸性」の3つに分類されます。
「弛緩性便秘」
運動不足・水分不足・食物繊維の不足・腹筋力の低下・過剰なダイエットなどが誘因となる事が多く、女性や高齢者に多く見られる便秘です。
便秘の中で最も多いタイプがこの「弛緩性便秘」といわれています。
このタイプは、腸管が緩み、腸の蠕動運動が低下することにより、大腸の中に便が長期間留まってしまい、過剰に水分が吸収され、便が硬くなり、便秘を引き起こします。
便意があるのにお腹が張って苦しいのが特徴です。
便秘に伴い、お腹の張り・残便感・食欲減退・肩こり・イライラなどの症状が現れる事もあります。
「けいれん性便秘」
ストレスが原因となる事が多い便秘です。
腸の動きは、自律神経により調節されているのですが、過剰なストレスなどを受けると、自律神経が乱れてしまい、腸の働きの調節が出来なくなり、腸の運動が強くなり過ぎてひきつった状態となり便の通りが悪くなり起ります。
コロコロした便(兎の様な便なので、兎便といわれます)・食後の下腹部痛や残便感を訴える方や、便秘と下痢を交互に繰り返すという方もおられます。
「直腸性便秘」
直腸とは大腸の一部で、一番最後の部分(肛門の手前)です。
高齢者や寝たきりの人、痔などの理由により、排便を我慢してしまう人に多くみられます。
便そのものは直腸まで来ているのですが、排便反射が起こらない為に直腸に便が溜まってしまっているタイプです。
「器質性便秘」
腸閉塞や大腸癌などの器質的原因があることにより、通過障害を起こしてしまい、便秘となるタイプです。
※女性に便秘が多い理由
女性の月経前や妊娠中に分泌される「黄体ホルモン」は腸の運動を抑制する働きがあります。その結果、女性に便秘が多くなってしまいます。
次に、中医学の視点から便秘を紹介します。
【中医学的、便秘の種類と原因と養生法】
中医学では便秘の原因により、大きく「熱タイプ」「イライラ・滞りタイプ」「不足タイプ」「冷えタイプ」の4種類に分類します。
『熱タイプ』
中医学では「熱秘」といわれ、胃腸に熱がこもって起る便秘です。
辛い物の食べ過ぎ・もともと胃腸に熱がこもりやすい体質・熱病などは、胃腸に熱がこもり水分を奪ってしまい、大腸が潤せなくなり便秘をまねいてしまいます。
このタイプは、排便時に肛門に灼熱感があったり、便がとても臭うといった特徴があります。また、便秘に伴い腹部が膨満し、腹部を揉まれるのを嫌がる・口渇・口臭・赤ら顔・身体や胸が熱いなどの症状が現れます。
鍼灸治療では、胃腸の熱を取り除き、奪われた水分を回復させる治療を行います。
このタイプの方は、辛い物・油っこいもの・甘い物・味の濃い物などの食べ過ぎは、体内で熱になるので、上記の食べ物の摂り過ぎには注意して下さい。
熱をとってくれる食材には、大麦・小麦・はと麦・トウモロコシ・豆腐・豆乳・あさり・ところてん・昆布・わかめ・のり・しじみ・きゅうり・ゴーヤ・ズッキーニ・とうがん・レタス・白菜・セロリ・ナス・たけのこ・ごぼう・大根・トマト・スイカ・メロン・梨・バナナ・柿・緑茶・ウーロン茶などがあります。下記【予防法】の=食生活=を参考にお試し下さい。
『イライラ・滞りタイプ』
気の巡りが悪くなって起る便秘です。
中医学では「気秘」といわれ、過剰なストレスを受けたり、くよくよと思い悩んだり、長時間同じ姿勢で座っていたりすると、体内の気の巡りが悪くなってしまい、その影響が腸におよぶと便秘が起ります。
このタイプの便秘は、ストレスを受けたり、長時間座ったりすると悪化するという特徴があります。また便意はあるが排便出来ないという方も多くおられます。
便秘に伴い、腹部や脇や胸などが張る・ため息やおならがよく出る・口が苦い・偏頭痛などの症状が現れます。
鍼灸治療では、気を流すことにより、排便を促す治療をします。
このタイプの人は、出来るだけストレスを溜めないようにしましょう。
また、適度な運動は気の流れを促進してくれますので、出来るだけ体を動かす事を心掛けましょう。特にお仕事などで長い時間同じ姿勢でいるような方は、1~2時間に1回位はストレッチ程度で結構ですから動くようにしましょう。
深呼吸は気分のリフレッシュだけでなく、お腹の運動にもなります。時間も場所もとらずに出来るリフレッシュ&ストレッチです!!
気を流してくれる食材には、みょうが・三つ葉・春菊・パセリ・セロリ・シソ・にら・ネギ・小松菜・キャベツ・かいわれ大根・大根・かぶ・柑橘系の果物・ジャスミン茶などがあります。下記【予防法】の=食生活=を参考にお試し下さい。
『不足タイプ』
中医学では「虚秘」といわれます。虚秘には、便を押し出す力の無い「気の不足タイプ」と腸を潤せない「陰血の不足タイプ」があります。
「気の不足タイプ」
中医学では気虚といいます。気には推動作用といって、体内の物を動かす働きがあります。便もこの推動作用により押し出されます。
気は脾で作られるのですが、疲労・胃腸の慢性病などは脾を傷つけてしまいます。その結果、気が作られず、気の不足をまねき、便を押し出す力が弱まり便秘が起ります。
このタイプの便秘は、排便時にとても疲れたり、汗が出て息切れがする・便は硬い、又は軟らかい・疲労すると便秘が酷くなるといった特徴があります。
便秘に伴い、顔色が白い・倦怠感・話すのも億劫・気力のなえ・脱肛・汗かき・精神疲労・息切れなどの症状が現れます。
鍼灸治療では気を補うことで、便を排泄する力をつけます。
このタイプの人は、肉体的疲労や精神的疲労、睡眠不足は厳禁です。
気を補う食材としては、大麦・小麦・はと麦・そば・大豆製品・牛肉・鶏肉・とうもろこし・えだ豆・まいたけ・しいたけ・人参・山芋・じゃがいも・里芋・さつまいも・さやいんげん・かぼちゃ・キャベツ・なつめ・いちご・パイナップル・さくらんぼ・桃・ぶどう・麦茶・はと麦茶・ほうじ茶・杜仲茶などがあります。下記【予防法】の=食生活=を参考にお試し下さい。
「陰血の不足タイプ」
病後や各種出血は血の不足を起こします。また、血も先程の気と同様に脾で作られるので、脾が弱ってしまっても血が作られなくなり血の不足を招きます。
発汗や下痢のし過ぎ、あるいは体を温める性質の薬の飲み過ぎは、体内の水分を奪います。
また、老化は気血の両方の不足を招きます。
血や水分は体を潤す働きがあるので、これらの不足が腸を潤せなくなると便秘が起ります。
このタイプの便秘は、コロコロ便(兎糞)という特徴があります。便秘に伴い顔色にツヤが無い・眩暈・唇や爪が白い・不眠・動悸・皮膚や髪の乾燥・のぼせ・手足のほてりといった症状が現れます。
鍼灸治療では、陰血を補う治療を行い、腸に潤いを与えます。
目や筋肉や精神活動は血により栄養されているため、このタイプの人は、過度な精神疲労・筋肉や目の使い過ぎにも注意しましょう。また、睡眠不足や過度な発汗にも注意して下さい。
陰血を補う食材としては、小麦・黒豆・軟骨や皮付きの肉・レバー・赤身の肉・うなぎ・あなご・なまこ・かき・ふかひれ・えいひれ・ひじき・ほうれん草・人参・なつめ・プルーン・レーズン・ざくろ・ブルーベリー・いちじく・黒ごま・黒きくらげ・松の実・くるみ・ピーナッツなどがあります。下記【予防法】の=食生活=を参考にお試し下さい。
『冷えタイプ』
中医学では「冷秘」といわれ、虚弱体質・冷え症・老人・冷たいものや生物の摂り過ぎ・身体を冷やす性質の薬の飲み過ぎは、体を温める力が不足してしまい、その影響で腸が冷え便秘が起ります。
このタイプの便秘は、冷えると便秘が悪化する特徴があります。
便秘に伴い、腹部や全身冷え・寒がり・腹痛・四肢の冷え・腰膝の冷え・透明な尿が沢山出る・夜間頻尿などの症状が現れます。
鍼灸治療では、お灸も併用して身体を温める力を補います。
このタイプの方は、冷えは厳禁です。
体を温める食材としては、もち米・マトン・牛肉・なまこ・えび・ねぎ・ピーマン・らっきょ・にら・ししとう・ザーサイ・かぼちゃ・ながいも・栗・くるみ・紅茶などがあります。下記【予防法】の=食生活=を参考にお試し下さい。
【便秘予防】
=食生活=
・食事は、3食しっかり摂り、食事のリズムを作りましょう。
胃に飲食物が入ると「胃・直腸反射」が起り、腸の動きも活発になり排便を促します。この反射は胃が空っぽの時に起りやすいので、朝食時が一番起りやすい時間帯といえます。朝食は必ず摂るようにしましょう。
・食物繊維を摂りましょう。
食物繊維は腸の運動を活発にし、便の量を増してくれ、排便を促します。
食物繊維が多く含まれる食材としては、穀物類・豆類・根菜類・海藻・きのこ・果物などがあります。(中医学的タイプ別のおすすめ食材を参考にお選び下さい)
また、水分が不足すると便が硬くなり腸の中を移動し難くなってしまいます。水分は十分(1日1.5ℓ以上)摂りましょう。特に朝一杯の冷たい水か牛乳が良いといわれております。これは、水分補給の他に「胃・直腸反射」も引き起こしてくれます。
但し、「けいれん性便秘」の方は、刺激が強いので、常温か温かい水にして下さい。
また、過度なダイエットは、食物繊維や水分不足になってしまいます。脂肪分も減らし過ぎると便の滑りが悪くなってしまうので注意して下さい。
・腸内環境を整えてくれる食材としては、根菜類・イモ類・海藻類・果物・アロエ※・プルーン※・穀物類・豆類・ヨーグルトなどがあります。中医学的タイプ別のおすすめ食材を参考にお選び下さい。(※は、食べ過ぎるとお腹がゆるくなることもあります。)
・中医薬膳で便秘によいとされている食材には、くるみ・アボガド※1・バナナ※2・クラゲ※1・ごま・杏仁※3・アーモンド※3などがあります。
※1:「不足タイプ」で胃腸の弱い方、「冷えタイプ」の方は食べ過ぎに注意して下さい。
※2:「冷えタイプ」の方は食べ過ぎに注意して下さい。
※3:「不足タイプ」で胃腸の弱い方は食べ過ぎに注意して下さい。
=運動=
腹筋運動:仰向けに寝て、膝を立て、上半身を起こす。
便を押し出す時は腹筋の力が必要です。また、腹筋が弱まると腸の運動も低下してしまいます。腹筋運動は家の中でできる簡単なエキササイズです。
特に弛緩性便秘の方へおすすめです。
他には、ウォーィング・ジョギング・水泳・ヨガといった全身運動や下半身を動かす運動も弛緩性便秘には効果的です。ご自分にあった運動を見つけて実行してみましょう。
※「イライラ・滞りタイプ」の方は、運動やストレッチがおすすめです。
=マッサージ=
腸に沿ったお腹のマッサージも便秘に効果があるといわれています。
仰向けになり、膝を立てて、お臍の周りを時計回りにゆっくり手のひら全体で30周位マッサージしてあげましょう。
=ツボ押し=
《どのタイプの便秘でも使えるツボ》
足三里・・膝の皿の外側の下縁から指4本分下がったところ
上巨虚・・足三里から指4本分下がったところ
支溝・・・手の甲側の手首の横ジワの真ん中より、指3本分上のところ、
大巨・・・ヘソから指3本分下がったところから、指3本分左右の外側。
便秘時はここが硬くなっている方多くおられます。
※痛気持ちいい程度で押してあげましょう。
「熱タイプ」:どのタイプの便秘でも使えるツボに下記のツボを加える
曲池・・・肘の外側、肘を曲げた時に出来る横ジワの親指側の先端で、押すとできるくぼみ。
合谷・・・手の甲で、親指と人差し指の骨が交わる手前のやや人差し指側のところ。
内庭・・・足の甲で、人差し指と中指のつけ根の間
※少し強めに押します。
「イライラ・滞りタイプ」:どのタイプの便秘でも使えるツボに下記のツボを加える
太衝・・・足の甲で、親指と人差し指の骨の交わるところの手前
内関・・・手のひら側の手首の横ジワの真ん中から、指2分上のところ。
手首を曲げると太いスジが2本出るのでその間。
※少し強めに押します。
「気の不足タイプ」:どのタイプの便秘でも使えるツボに下記のツボを加える
足三里・・・(どのタイプの便秘でも使えるツボを参照)
合谷・・・「熱タイプ」参照
※痛気持ちいい位の力で押しましょう。
「陰の不足タイプ」:どのタイプの便秘でも使えるツボに下記のツボを加える
復溜・・・内くるぶしから、指3本上で、骨とアキレス腱の間
※痛気持ちいい位の力で押しましょう。
「冷えタイプ」:どのタイプの便秘でも使えるツボに下記のツボを加える
気海・・・臍から指2本分下
関元・・・臍から指4本分下
※手のひら全体で温めてあげましょう。火傷に注意してお灸やカイロで温めても良いです。
=ストレッチ=
寝起きにストレッチにより、腸を目覚めさせてあげましょう。
・先ず、仰向けで寝たまま、手足を伸ばして大きく背伸びをします。
よく伸びたところで、5~10秒その状態を保ったまま深呼吸をします。
これを3~5回くり返しましょう。
・次に、仰向けのまま片方の膝を胸まで引き寄せ、5秒間キープします。
その後、もう片方の膝も同様に行い。それを3~5セット行います。
・今度はうつ伏せになり、両手をアゴの下で組み、膝を伸ばしたままで片足ずつ10
回上下させます。
=トイレ=
・朝食後は、「胃・結腸反射」が最も起りやすいタイミングです。朝食を食べてトイレに行く習慣をつけましょう。(便意がなくてもトイレに行く習慣をつけましょう)
・便意があるのにトイレを我慢することを繰り返していると、排便反射が起こらなくなってしまい、直腸性便秘を引き起こしてしまいます。トイレを我慢することは、出来るだけ控えて下さい。
=ストレス=
けいれん性便秘の項でも書きましたが、ストレスも便秘の原因になります。自分に合ったストレス発散法を見つけストレスは出来るだけ溜めないようにしましょう。
腹式呼吸や深呼吸は、横隔膜がより大きく動くので胃腸の運動や自律神経を整える作用があります。また中医学的にも気の巡りを促してくれ、ストレスによる気づまりを解消してくれます。
最後までお読み頂き有難うございました。本文章が便秘で悩まれている方の一助になれれば幸いです。
尚、本文章の内容は一般的なものです。現在、通院等されておられる方は、担当医にご相談の上参考になさって下さい。
最後に、冒頭でも書きましたが、便秘には別の疾患が原因となっている場合もあります。
血便や腹痛を伴う便秘や、急に便秘を繰り返すようになられた方は、一度消化器内科や肛門科の受診をおすすめいたします。