現代人の特有な疾患にアレルギー疾患があります。
多くの方が悩まされている疾患ですが、実は漢方薬や鍼灸治療を受けておられる方も少なくありません。
「えっ、鍼や漢方でアレルギーの治療があるの??」と思われる方もいらっしゃると思います。
まだ日本ではアレルギー疾患に対する漢方や鍼灸治療はあまり知られておりませんので、今回は鍼や漢方でアレルギー疾患にどのようにアプローチするのかを、アレルギー性鼻炎や花粉症を中心に紹介したいと思います。
(尚、アトピー性皮膚炎については、既に公開しておりますのでそちらをご覧ください)
現代医学(西洋医学)と中医学ではアレルギー疾患に対しての概念や治療の考え方が全く違います。
中医学のアレルギー疾患に対する治療は大きく2つあり、症状の酷い時は標治(ひょうち)といい、症状を抑えることを目的とした対処療法的な治療を行い、症状が落ち着いている時に本治(ほんち)というアレルギーを起こす原因の改善を目的に根本的な治療を行います。
中医学では、標治と本治の両方を行います。
いくら標治で症状を抑えても、症状が出る原因を治療しないと、再発してしまうからです。
一般的に中医学ではアレルギーを起こす原因は、体質や生活習慣あるいは生活環境にあると考えています。
例えば、花粉症の原因は花粉ではなく、体質・生活環境・生活習慣であって、花粉はあくまでも症状を発症させたり、悪化させる引き金にしかすぎません。
この本治は、一般に症状が軽い時期に行いますので、花粉症などの様に季節性のものは、そのシーズン以外の時期に本治の治療を行い、この治療が大事となります。
最近、漢方薬が花粉症に使われ始めていますが、まだまだ症状を抑える為だけに使われることが多く、本治をしていないので翌年また発症してしまっている方が多いようです。
現代医学的アレルギー疾患とは
一般的なアレルギー疾患には、花粉症をはじめ、気管支喘息・アレルギー性鼻炎・アレルギー性結膜炎・アレルギー性皮膚炎・一部のジンマシンなど、よく聞く疾患もありますが、他にもアレルギー性紫斑病・アレルギー性肉芽腫性血管炎・アレルギー性脳脊髄炎・アレルギー性膀胱炎などといった疾患もあります。
花粉症などの一般的なアレルギー疾患とは、免疫系の過剰反応により発症する様々な疾患を総称した言葉です。
例えば、花粉などの元々体には無害な物に対してまで抗体が出来てしまうと、花粉が体内に入ってくる度に体内で抗体が増加し、ある量に達するとアレルギー症状が発症します。
花粉症などでは、症状が中程度の場合は抗ヒスタミン薬などを用い、くしゃみや鼻水などの原因物質を抑えます。また症状が重くなると、ステロイド薬や抗ロイコトリエン薬などを用い症状を抑えます。
中医学的アレルギー疾患の捉え方
現代医学では、アレルギー疾患を発症させる原因(例えば花粉症であれば花粉)をアレルゲンと呼び、アレルギー反応を起こしやすい体質をアレルギー体質といいます。
一方、中医学では、病気の原因を体の外に在るものと、体内に内在するものに分け、前者を外感といい、後者を内傷と呼びます。
アレルゲンは体外に在るものなので、外感に含まれます。
《外感》
アレルギーを起こす外感としては、「六淫」と呼ばれるものがあります。
六淫は、風・湿・暑・熱(火)・燥・寒の六種類あり、総じて外邪と呼ばれています。
通常は、それぞれに邪を付けて、風邪(ふうじゃ)・湿邪(しつじゃ)・熱邪(ねつじゃ)・暑邪(しょじゃ)・燥邪(そうじゃ)・寒邪(かんじゃ)、といいます。
因みに、皆さんがよくいう風邪(かぜ)の語源は風邪(ふうじゃ)といわれています。
外邪は各邪が単体で人体を襲う場合と、複数の邪が合わさって襲う場合があります。
現代医学でいう花粉などのアレルゲンは外邪に相当します。
治療としては、症状や、脈・舌などを参考に患者さんがどの邪によりアレルギー症状が起っているのかを判断して、その邪を去邪する治療をします。
主な邪の主な特徴
風邪によるもの:患部が移動する・症状の変化が早いなど
熱邪によるもの:患部が赤い・熱感がある・冷やすと楽になり、温めると悪化するなど
寒邪によるもの:患部が冷えている・温めると楽になり・冷やすと悪化するなど
湿邪によるもの:ジクジクした皮膚炎・鼻水や涙が沢山出る・汗をかくと楽になるなど
燥邪によるもの:皮膚炎はカサカサしている・空気が乾燥すると悪化など
※外邪による疾患は共通して、症状が激しく急に発症することが多いようです。
上記のような治療は、一般的に季節性の疾患の症状が激しい時に行うもので、あくまでも対処療法なので、症状が治まっても完治とはなりません。
ところで、同じ環境で生活をしていてもアレルギー疾患が発症してしまう方と、発症しない方がいるのは何故でしょう??
それは、体質が大きく影響をしています。
また、アレルギー疾患を起こす体質は1つではありませんので、症状が安定している時に、体質を見極め根本的な治療をして再発しづらい体質に変えなければなりません。。
では、それらについて次章で紹介をします。
《体質・生活習慣と生活環境》
アレルギー疾患の原因は先に述べた外邪だけではありません。
根本的な治療の鍵は体質と生活習慣や生活環境にあります。
外邪はあくまで症状を発症あるいは悪化させる引き金でしかありませんので、根本的な治療は体質の改善をしなければなりません。
さらに、何故このような体質になってしまったのかも把握する必要があります。
なぜなら、その体質を作った原因を排除しなければ、折角体質を改善しても、いずれまた元の体質に戻ってしまい、アレルギー疾患を再発させてしまうからです。
アレルギー疾患の場合は、昔の人にはなかったのに、現代人にあるという事に注目をしなければなりません。
例えば、喘息などの原因には空気汚染などがあげられますが、それだけではこれほど多くの方がアレルギー疾患に悩まされることにはならないと思います。
そこには、生活習慣の変化(居住や食生活)や、職場や家庭環境といった生活環境の変化なども十分に考えらえます。
中医学では、このような環境的な因子も診断材料にし、養生指導という形で排除してまいります。
=アレルギー疾患を引き起こしやすい体質と関係のある臓腑=
代表的なアレルギー疾患を起こしやすい体質としては、
① バリア不足体質
② 水液代謝障害体質
③ イライラ体質
④ 血不足体質
⑤ エネルギー不足体質 などがあります。
①「バリア不足体質」(肺気虚)
本来、花粉などの体の外からやってくる外邪(アレルゲン)に対して、体はバリアをはって体内に侵入させないようにしているのですが、このバリアが弱いと外邪が体内に入り込みアレルギー疾患を発症させてしまいます。
このバリアの働きをしているのは「衛気」といわれる「気」です。
「衛気」は体内で作られ、「肺」の働きにより体表へ運ばれます。
もし、「肺」の働きが弱まると、「衛気」が体表まで運ばれず、バリアが形成出来なくなってしまいます。
このようなタイプを「肺気虚」とよびます。
この体質の方は、普段から風邪をひきやすい・声に力がない・息切れ・少し動いても汗が沢山出る、といった症状が現れます。
治療は、肺を強くする治療が中心となります。
②水液代謝障害体質(痰湿・湿熱・痰火・脾気虚)
甘いものや、味の濃い物、油っこいもの摂り過ぎや、過度の飲酒は、体内で余分な水分となってしまいます。この余分な水分を中医学では「痰湿」とよび、アレルギー症状を発生させてしまいます。
このような体質の方は、痰や鼻水や涙や目ヤニが多く出たり、アレルギー性皮膚炎の方はジクジクした感じになります。
また、「痰湿」は熱化することがあり、熱化してしまうと「湿熱」あるいは「痰火」などといい、このような状態になると、痰や鼻水などは黄色くネバネバしてきます。
ところで、中医学では脾臓が消化の中心となる臓器なのですが、水分をとても嫌う臓器でもあります。
このことから、もともと脾が弱かったり、上記の様な食生活を続けていると、体内に余分な水分が溜まり、脾の働きが弱まり、消化能力まで落ちてしまいます。
すると、なおさら食べた物が消化されず、余分な水分が溜まりやすくなってしまい悪循環となってしまいます。このような状態を中医学では「脾虚湿盛」といいます。
このような体質の方は、軟便・浮腫・体が重い・普段から痰が多いといった症状が現れます。また、食欲不振、食後にお腹が張る・倦怠感なども現れます。
女性の方は生理時にオリモノが増える事もあります。
治療としては、余分な水分を取り除き、脾を元気にする治療を行います。
又、食生活が原因で、この体質になっていると考えられる場合は食事も見直してゆきます。
③ イライラ体質(肝鬱熱)
中医学では体の中にこもった熱もアレルギー症状を起こす原因の1つと考えます。その要因として、イライラなどの精神的抑鬱があげられます。
イライラなどの精神的抑鬱は気の流れを滞らせてしまいます。気には体を温める働きがあるので、気が滞ることにより熱化します。この熱が、症状を悪化させたり、アレルギー疾患を発症させたりしてしまいます。
この体質の方は、イライラしたり怒ったりすると症状が悪化するという特徴があります。
又、顔色が赤い・普段からイライラや怒りっぽい・胸や脇が張った感じがする・偏頭痛・口が苦い・疲れ目などがあり、春先は特に目の痒みや充血などの症状がみられたりします。女性の方は、生理前に、胸やお腹が強く張ったり、生理周期が不安定になる方もおられます。
中医学では肝には「疏泄」といって、気の流れを良くする働きがあります。しかし、肝はストレスにとても弱い臓腑でもあり、過度なストレスがかかると直ぐに気の滞りを起こしてしまいます。
そこで治療としては、肝の気の流れを整え、熱を取る治療をします。
④ 血不足体質(血虚)
血の不足といっても、現代医学と中医学では血に対する概念が少し違うので、一般にいう貧血とは違います。あくまでも中医学でいう血が不足している体質です。
過度の肉体労働・慢性病・大量出血・過度な精神疲労などにより起こります。
この体質の方は、普段から眩暈・動悸・顔の血色が悪く艶が無い・髪に艶が無い・肌荒れ・爪や唇の血色が悪いといった症状がみられます。
また女性の方は生理の遅れ・生理後半から生理後に生理痛が酷くなる・無月経となる方もおられます。
治療は血を補う治療をします。
⑤ エネルギー不足体質(腎虚)
腎にはエネルギーが溜められているのですが、そのエネルギーが不足している体質です。
生れつきこのエネルギーが不足している場合や、過労・慢性病・過度の性交などにより起こります。
生まれつきエネルギーが少ない方は、子供の頃から背が低かったり、成長が遅かったりします。また、歯が抜けたり、老化が早い方もおられます。
その他の症状としては、膝や腰に力が入らない・腰痛・頻尿・難聴・精力の減退、などが現れます。
さらに、温める力や冷やす力が弱まると、冷えやのぼせ・ほてりが起こります。
この体質の方は、腎のエネルギーを補う治療をします。
また、冷えがある方には温める力を補う治療を加え、のぼせやほてりのある方には潤す力を補う治療を加えます。
アレルギー疾患を起こしやすい代表的な体質を紹介しました。
今回紹介した体質は代表的なものですので、他にもアレルギー疾患を起こす体質もありますし、2つ以上の体質が絡み合う複雑な体質もあります。
ご自身の体質の判断が難しい場合や、養生法についてお知りになりたい方はお気軽にご相談下さい。
今回はアレルギー疾患を全般的に紹介いたしましたが、今後「花粉症」「アレルギー性鼻炎」について、養生法も含めて詳しい内容も当HPで公開してゆく予定です。
最後までお読みいただき有難うございました。アレルギー疾患でお悩みの方はお気軽にご相談下さい。
どうぞお大事になさって下さい。