中医学では、多量の鼻水、鼻づまり、嗅覚の減退などを主とした症状を「鼻淵(びえん)」と呼んでおり、現代医学の感冒、急性・慢性鼻炎、急性・慢性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎などの一部は鼻淵に含まれます。
中医学では、これらの症状を引き起こす病理機序は複数あり、その違いによりタイプ分類をし、治療の際はツボや漢方薬を使い分けております。
今回は、代表的な分類と自分で手軽に押せるツボを紹介します。
~鼻淵を引き起こす原因は大きく2つ~
これらの症状を引き起こす原因は、体の中に熱が溜まってしまった「熱型タイプ」と、臓器のエネルギーの不足により起こる「気の不足タイプ」に2分されます。
=熱型タイプ=
「熱型タイプ」は、熱を産んだ原因と、関係する臓腑経絡によって更に分類されます。
身体の中に熱を溜める原因は様々ですが、代表的なものに「気」「血」「水」などの滞りがあります。この中で、鼻のトラブルを引き起こしやすいものは、「気」と「水」の滞りです。
気の滞りにより生じた熱を「鬱熱(うつねつ)」、水の滞りにより生じた熱を「湿熱(しつねつ)」といいます。
次に関係する臓腑経絡ですが、「鬱熱」は肺経と肝胆になり、「湿熱」は脾経となります。このことから、「熱型タイプ」の代表的な分類として、「肺経鬱熱」「肝胆鬱熱」「脾経湿熱」の3タイプがあります。
=気の不足タイプ=
「気の不足タイプ」は、どの臓器のエネルギー(気)が不足しているかにより分類されます。
鼻のトラブルを引き起こす気の不足の多くは、肺と脾に起こります。このことから、「気の不足タイプ」の代表的な分類としては、「肺気虚」と「脾気虚」の2タイプがあります。
それでは、各タイプを紹介します。
―熱型タイプー
熱型タイプの共通の症状としては、比較的激しい頭痛を伴う事が多く、鼻水が出る場合は、黄色く粘りが強い鼻水が出ます。また、鼻水に臭いがある場合もあります。
鼻づまりは、持続性で一時的な嗅覚減退または消失が起こる場合があります。
また、体を温めると症状が悪化するという特徴があります。
『肺経鬱熱』
春先の温かい空気が体内に入り込んだり、風邪などが長引き体内で熱が生まれ、その熱が鼻に影響して起ります。
《主症状》
鼻水、鼻づまり、嗅覚減退、頭痛を併発する場合は額や前頭部が張った感じの頭痛が多く、鼻水が出ると頭痛が軽減します。また、頬の辺りが張った感じの痛みがある方もいます。
《随伴症状》
黄色く粘った痰、発熱、悪寒、咳など
《おすすめのツボ》
鼻通:鼻の両側の真ん中。ツボを押してもいいですが、鼻筋の両側を目頭から小鼻の間を上下にこすっても構いません。
睛明:目頭の先端
攅竹:眉毛の内側
印堂:左右の眉毛を結んだ線の中央
上星:印堂から真っすぐ上に伸ばした線上で、髪の生際から親指の幅分上に入ったところ
合谷:手の甲で親指と人差し指のつけ根の骨が交わる手前のやや人差し指側。
『肝胆鬱熱』
イライラや激怒などの過度なストレスが原因となり起ります。
過度なストレスは気の流れを悪くし滞りを産みます。気には体を温める働きがあるので、気の滞りは熱を産んでしまいます。その熱が鼻に影響し発症します。
《主症状》
鼻水、鼻づまり、嗅覚減退、頭痛を伴う場合は側頭部の痛みが多くみられます。
イライラや激怒などのストレスで症状が悪化します。
《随伴症状》
発熱、口が苦い、喉の渇き、めまい、耳鳴り、難聴、不眠、夢を多くみるなど
《おすすめのツボ》
鼻通:「肺経鬱熱」を参照
睛明:「肺経鬱熱」を参照
上星:「肺経鬱熱」を参照
攅竹:「肺経鬱熱」を参照
印堂:「肺経鬱熱」を参照
合谷:「肺経鬱熱」を参照
太衝:足の甲で親指と人差し指のつけ根の骨が交わる所
『脾経湿熱』
甘い物・脂っこい物・味の濃い物は、体内で「湿熱」を産みます。そこで生まれた湿熱が鼻に影響して発症します。
《主症状》
鼻水、鼻づまり、嗅覚減退、食後に症状が悪化する事が多くみられます。
《随伴症状》
《おすすめのツボ》
鼻通:「肺経鬱熱」を参照
睛明:「肺経鬱熱」を参照
上星:「肺経鬱熱」を参照
攅竹:「肺経鬱熱」を参照
印堂:「肺経鬱熱」を参照
合谷:「肺経鬱熱」を参照
曲池:肘を90度曲げた時に、肘の外側にできる横ジワの先端
―気の不足タイプー
疲労や長患いは、気を消耗させます。この時に肺や脾の気が消耗してしまうと鼻のトラブルが発症する場合があります。
気の不足タイプの共通症状としては、頭部の鈍痛やめまいを伴いやすく、鼻水は白く粘りがあります。嗅覚の減退もみられることもあります。
『肺気虚』:
体質的に肺の気が不足していたり、疲労や長患いが原因となり、肺の気が不足にすることにより起こります。
肺は鼻と密接な関係があります。その為、肺の気の不足は鼻のトラブルを引き起こす事が多々あります。また中医学では肺は体内の水液代謝にも深く関与するので、肺の気の不足は、水液代謝能力を低下させ、鼻水、鼻づまりなどを引き起こします。
《主症状》
鼻水、鼻づまり、嗅覚減退、鼻づまりは軽かったり重かったりします。寒冷刺激で症状が悪化する事が多くみられます。
《随伴症状》
咳・痰・眩暈・寒がり・手足の冷え・息切れ・少し動いただけで汗が出るなど
《おすすめのツボ》
鼻通:「肺経鬱熱」を参照
睛明:「肺経鬱熱」を参照
上星:「肺経鬱熱」を参照
攅竹:「肺経鬱熱」を参照
印堂:「肺経鬱熱」を参照
合谷:「肺経鬱熱」を参照
百会:頭のテッペンで、鼻の頭から上に伸ばした線と、耳の最上端から上に伸ばした線の交わる所
太淵:手首の手のひら側に出来る横シワ上で、親指の付け根の下。(脈をとる所の近く)
『脾気虚』(脾虚湿盛):
体質的に脾の気が不足していたり、疲労や長患いが原因となり、脾の気が不足することにより起こります。
脾も肺と同様に体内の水液代謝に深く関与しております。また「昇清降濁」といって、脾には、栄養物などの必要な物質(清)を頭や顔がある上部へ運び、上部にある老廃物などの不要な物質(濁)を下に降ろす働きがあります。もし、脾の気が不足してしまうと、水液代謝能力が落ちてしまったり、鼻がある頭や顔に栄養物が運ばれなくなったり、不要な物質が降りてこなくなってしまい鼻のトラブルが発症する事があります。
《主症状》
鼻水、鼻づまり、嗅覚減退、頭がぼんやりする、頭が重くなる頭痛を伴う事が多くみられます。疲労により症状が悪化します。
《随伴症状》
全身の倦怠感、気力が出ない、食欲不振、お腹が張る、軟便又は下痢、浮腫みなど
《ツボ刺激》
鼻通:「肺経鬱熱」を参照
睛明:「肺経鬱熱」を参照
上星:「肺経鬱熱」を参照
攅竹:「肺経鬱熱」を参照
印堂:「肺経鬱熱」を参照
合谷:「肺経鬱熱」を参照
百会:「肺気虚」を参照
足三里:向うズネの骨の外側と筋肉の間で、膝から指4本分したに下がった所
=最後に=
最後までお読み頂き有難うございました。
代表的な鼻淵のタイプを紹介いたしましたが、この他にも今回紹介していないタイプや、様々なタイプが混ざった複雑なものもあります。鼻の症状でお悩みの方はお気軽にご相談下さい。