中医学では食欲不振を「納呆」といい、空腹状態ではあるのに食物に対する欲望がわかない状態をいいます。
また、症状のひどい方は食べ物を見たいり、匂いを嗅いだだけでも悪心や嘔吐することがあります。これを「悪食」又は「厭食(えんしょく)」といいます。
食欲不振の原因は様々です。
中医学では、食欲不振の原因や発病のメカニズムにより幾つかのタイプに分類し治療を行います。
今回は、代表的なタイプとその養生法を紹介します。
=代表的なタイプ=
A:イライラタイプ
B:食べ過ぎタイプ
C:水液代謝異常(熱型)タイプ
D:胃の潤い不足タイプ
E:消化器系虚弱タイプ
A:イライラタイプ
中医学では「肝胃不和」といいます。
肝には「疏泄作用」といって、気の巡りを良くする働きがあります。
飲食物の消化は脾や胃が中心となり行われており、肝の「疏泄作用」が脾や胃に働きかけることで、消化が促進されます。
ところが、肝はストレスにとても弱い臓器なので、イライラしたりストレスを受けると、肝が障害され「疏泄作用」が失調し、それが胃に影響すると消化能力が低下し食欲が落ちます。
このタイプの食欲不振の特徴は、ストレスなどを受けると急に食欲が低下します。
随伴症状としては、ゲップ、シャックリ、胸や脇が張る、オナラがよく出る、口が苦い、イライラして怒りやすいなどがあります。
=養生法=
【ツボ刺激】
足三里:膝関節外側から指4本分下で骨の際にあります。(強めに押します)
太 衝:気を流す効果の高いツボです。
足の甲にあり、親指と人差し指の付け根の骨が交わる所の少し前にあります。
ツボを押している時に、一緒に深呼吸をすると効果が高まります。
【おすすめの食べ物】
春菊・たまねぎ・ピーマン・こまつな・だいこん・パセリ・キウイフルーツ・グレープフルーツ・みかん・枇杷・ゆず・胡椒・パクチー・きびなど
※中医学ではミントやシソのような香りのあるものは「気」の流れを良くしてくれると考えており、ストレス解消に役立つといわれています。お召し上がりの際は、香りも楽しむと効果が増します。
[お茶]
シソ茶・ジャスミン茶・ミントティー・タイムティー・ローズマリーティー・カモミール茶・緑茶・菊花茶など
【その他】
このタイプは気が滞っている方が多いので、気を流す養生法を実践しましょう。
・ストレッチや深呼吸などは気を流す働きがあります。
・普段の生活では出来るだけストレスを溜めないようにしたり、ドライブ、ショピング、映画鑑賞など、ご自分にあったストレス発散法をみつけましょう。
小説や映画などを見て笑うのは勿論のこと、思い切り泣くこともストレス発散になります。
・柑橘系の香りは「気」の巡りを改善させます。みかんやレモンの皮などを入浴剤とした
り、お部屋の芳香剤としてみてもいいでしょう。また、アロマを代用する方法もあります。
・生活リズムも出来るだけ規則正しくし、精神も出来るだけ安定させるように心がけましょう。
B:食べ過ぎタイプ
暴飲暴食による食欲不振です。中医学では「食滞」といいます。
暴飲暴食をすると、胃の中で飲食物が停滞してしまい、胃が新たに飲食物を受け入れられなくなってしまうと食欲が落ちてしまいます。
随伴症状としては、食べ物を見たり、匂いを嗅いだだけで、悪心嘔吐する、臭い匂いのゲップがでる、胃酸が口に上がってくる、胃の辺りが張った感じがする、便秘又は軟便あるいは未消化物の混ざった下痢などがあります。
=養生法=
【ツボ刺激】
足三里:イライラタイプ参照
裏内庭:足の裏で人差し指と中指のつけ根の間(強めに押します)
【おすすめの食べ物】
マンゴ・パイナップル・みかん・りんご・とうもろこし・ごぼう・大根・きゃべつ・パセリ・こんにゃく・チンゲン菜・竹の子・山伏茸・豆腐・杏仁・そば・ほたて・くらげ・山査子・パクチー・きびなど
【その他】
食べ過ぎには十分注意して下さい。
C:水液代謝異常(熱型)タイプ
中医学では「脾胃湿熱」といいます。
味の濃い物、甘い物、油っこいもの、お酒の摂り過ぎなどは、体の中で余分な水分をうみます。消化の中心的な働きをする脾は乾燥を好み湿潤を嫌うので、体内に余分な水分が生まれてしまうと消化能力が落ちてしまい食欲も低下します。
このタイプの特徴は、油ものを食べたり、過度の飲酒をすると食欲が落ちる。また、疲労すると食欲が落ちたり、症状が悪化する方もおられます。
随伴症状としては、胃の辺りにつかえ感がある、悪心嘔吐を伴う、油ものを見たり匂いを嗅ぐだけで悪心嘔吐する、普段から痰が多い、軟便などがあります。
=養生法=
【ツボ刺激】
足三里:イライラタイプ参照
曲 池:肘の関節の外側で、肘を曲げた時にできる横ジワの先端。
陰陵泉:膝関節の内側のすぐ下で、押すと凹むところです。
【おすすめの食べ物】
キャベツ・えんどう豆・さやいんげん・そら豆・枝豆・とうもろこし・なす・だいこん・じゃがいも・ふな・りんご・パイナップル・キウイフルーツ・山査子・あわ・大豆など。
【お茶】
プーアール茶・緑茶・紅茶・ウーロン茶・ジャスミン茶・グアバ茶・杜仲茶
など
【その他】
・汗は体内の余分な水分を排出してくれますので、適度の運動により、汗を
かきましょう。
・油こいもの・甘いもの・味の濃いもの・辛いもの・お酒、高カロリー食の摂りすぎは、体内で余分な水分と熱をうみます。摂りすぎに注意しましょう。
また、つまみ食いにも注意して下さい。
D:胃の潤い不足タイプ
中医学では、「胃陰虚」といいます。
胃は飲食物を受け入れ、粥状にし、小腸に送ります。このように胃は飲食物を通過させています。その為、飲食物を通過しやすくするため、胃の内面は潤っていなければなりません。
しかし、疲労や熱病などは胃の潤いを奪ってしまうことがあります。すると飲食物が胃を通過しづらくなり、胃は新たに飲食物を受け入れられなくなってしまい、食欲が低下してしまいます。
このタイプの方は、空腹感はあるが食べられないという特徴があります。
随伴症状としては、口の乾き、胃の辺りの痛みや灼熱感、唇や舌の乾燥、おえつなどがあります。
=養生法=
【ツボ刺激】
足三里:イライラタイプ参照
太 谿:内くるぶしとアキレス腱の間の凹んだ所(気持ちのいい程度の力で押しましょう)
【おすすめの食べ物】
トマト・アボガド・ぶどう・なし・メロン・いちご・びわ・りんご・あわび・真鯛・ひらめ・カレイ・さば・鯉・あさり・牛乳など。
【その他】
夜更かしは避け、12時前に寝るようにしましょう・
E:消化器系虚弱タイプ
中医学では「脾胃虚弱」といいます。
脾と胃は消化の中心を担う臓腑です。
疲労や慢性疾患は脾や胃を損傷させてしまい、消化能力を低下させ、食欲を落とします。
このタイプの方は、空腹感がなく、食べると直ぐにお腹が張ったり疲労感を感じます。また、疲れると更に食欲が低下する特徴があります。
随伴症状としては、気力のなえ、常に眠い、少し動いても汗がでる、息切れ、浮腫み、軟便または下痢、胃腸の軽度の張りなどがみられます。
=養生法=
【ツボ刺激】
足三里:イライラタイプ参照
中 脘:おヘソから指5本分上です。手の平でゆっくり気持ちいい程度の力で押してあげましょう。
【おすすめの食べ物】
米・えんどう豆・さやいんげん・そら豆・枝豆・さつまいも・とうもろこし・しいたけ・とりにく・牛肉・太刀魚・ふな・ほたて・なつめ・など。
[お茶]
プーアール茶・緑茶・紅茶・ウーロン茶・ジャスミン茶・グアバ茶・杜仲茶・高麗人参、など
【その他】
このタイプの方は、無理をして食べると脾胃を損傷してしまうので、無理に食べる必要はありません。
※食養生については、現在病院へ通院されている方は、担当医にご相談の上実施して下さい。
最後までお読み頂き有難うございました。食欲不振は大きな病気が隠れていることもあります。気になる様でしたら専門機関への受診をお勧めいたします。