皆さんは内臓というと何が頭に浮かびますか?
心臓・腎臓・肝臓・脾臓・肺・胃・小腸・大腸・胆嚢・膀胱、などが頭に浮んだことと思います。
勿論、この名称は中医学でも存在します。
しかし、中医学と現代医学では内臓に対する概念が違います。
例えば、現代医学では内臓を物質(物)として捉えておりますが、中医学ではその機能(働き)に注目しております。
このことから、現代医学と中医学では同じ名前の内臓であっても、実は全く同じものではありません。
ここでは、個々の内臓についてではなく、中医学からみた全体的な内臓の話を書いてみたいと思います。
=五臓六腑=
皆さんは「五臓六腑」という言葉を聞いたことがありますか?
よく年配の方が「五臓六腑にしみわたる」という表現をしますよね。
この「五臓六腑」とは、もとは中医学の言葉で5つの臓(五臓)と6つの腑(六腑)の総称です。
六腑の主な働きは、消化・吸収・排泄です。
飲食物から「気・血・水」の原料となる栄養素を吸収し、それを臓器に渡し、不必要な物を排泄します。
形態としては中が空洞な中空臓器で、胃・胆・小腸・大腸・膀胱・三焦(さんしょう)があります。
一方、五臓の主な働きは、六腑が飲食物から吸収してくれた栄養素を受け取り、「気・血・水」を生成し貯蔵します。またそれ以外には精神活動にも関与します。
形態としては実質臓器で、肝・心・脾・肺・腎があります。
| 内 臓 | 形態 | 機能 |
六腑 | 胃・小腸・大腸 膀胱・三焦・胆 | 中空 | 飲食物から栄養素を吸収し、臓器に渡し 不必要な物を排泄する(消化・吸収・排泄) |
五臓
| 肝・心・脾・肺・腎 | 実質 | 「気・血・水」の生成・運搬・貯蔵 精神活動にも関与 |
=奇恒常の腑=
さらに五臓六腑以外に「奇恒の腑」といわれるものがあります。
これは、五臓六腑のどちらにも属さない内臓の総称で、「骨・脳・髄・胆・女子胞・脈」があります。
胆は奇恒の腑と六腑のどちらにも属しています。
「女子胞」とは狭義的には子宮を指しますが、広義的には卵巣や卵管を含めた生殖器全般を意味します。
これは、先程も書きましたが中医学では内臓を物質的に捉えず機能に注目をする為です。具体的にいうと「女子胞」の機能は「生殖」なので、広義的には子宮以外にも生殖に関わる卵巣や卵管などが含まれるわけです。こういった考え方が中医学的な概念の一つになります。
「脈」とは血管のようなものと考えて下さい。
=中医学の内臓の概念=
上記が中医学で名前が付けられている内臓です。
よくみると現代医学に存在するものが中医学では無かったり、逆に現代医学に無いものが中医学には存在したりします。
これも内臓を物質として捉えるか、機能に注目して捉えるかの違いになります。
物質として捉えるのであれば、そこに存在する物には名前を付けなければなりませんが、機能として捉えるのであれば、同じ機能を持つ物はあえて名前をつける必要はなく一つの名前でいいわけです。
例えば、中医学にはすい臓はありません。すい臓の機能はすい液(消化液)を作り、十二指腸へ分泌し、消化の補助をします。これは大きな視点でみれば消化という機能の一部になります。中医学では消化の働きをする臓腑としては脾や胃がありますので、すい臓は脾に含まれているのです。
逆に、機能に注目していることで、目には見えない物質としては存在しない三焦などが中医学では存在します。
この五臓六腑は単独で機能するものではありません。お互いに協力協調し合い働いています。
そのため、どれか1つの臓腑に不調が生じれば密接な関係にある臓腑に影響が及んでしまいます。
このような概念が、中医学が体を1つの有機体として見るという特徴につながっています。
=臓と腑の表裏関係=
先程、五臓六腑は協力し合っていると書きましたが、臓と腑の間で特に密接な関係にあるペアを「表裏関係」といいます。具体的には、
肝―胆・心―大腸・脾―胃・肺―大腸・腎―膀胱、の組み合わせになります。
このペアは、臓が表に、腑が裏に属し、特に密接な関係で協力し合って生命活動を支えているため、どちらかに不調が起ればその影響を受けやすい関係ともいえます。
臓(表) | 肝 | 心 | 脾 | 肺 | 腎 |
腑(裏) | 胆 | 小 腸 | 胃 | 大 腸 | 膀 胱 |
如何ですか、現代医学とは内臓に対する概念がだいぶ違うことがわかって頂けたでしょうか?
このことから、例えば、我々が患者さんに「あなたは肺が悪いと」言った場合、それが必ずしも現代医学の肺をさしているわけではないということです。